第6章 名乗り
大枯は渋い顔をした。雨露は笑って話を続ける。
「何もお前と初枯が小枯なしではやっていけぬボンクラだと言うている訳ではない。小枯が憎いとも言わん。ただ時雨は反則だわ。重宝が過ぎる」
「重宝か…」
「耳が痛いことばかりでむかっ腹が立とうがもうひとつ。これをいい機会に小枯をそろそろ解放してやれ。このままではあの女、本当に時雨に食われて死ぬぞ」
「…分かっている」
「分かっているなら何故そうしない?俺なら狩り以外の理由でいつ死ぬかわからぬ奴をいつまでも仲間にはしておかん。それがお互いの為だ」
「……」
「それにお前は所帯を持って壱の牟礼長を継いでも凍みでいるつもりか?無理だろう?だからわしらに早めに凍みを譲れと言うている。今の冬の間にわしらに大物狩りを教えろ。次の冬には付き添うてわしらの狩りを見届けてくれれば、わしらは凍みになれる。そうなるとわしらも次の霜鎌の候補を育てあげんとならん。話は早めに進めたい」
「勝手ばかり言う…」
「勝手か?随分収まりのいい話をしとると思うが?」
大枯はまた言葉に詰まった。
雨露の言う通りだ。言う通りだが。
「もっと収まりよくしてやる」
ふと霜刃が口を開いた。
「何だって?」
何年かぶりに聞いた霜刃の声に大枯は目を瞬かせた。
霜刃は端正に正座したまま、大枯をじっと見た。
「小枯に初枯を探しに行かせろ」
「…え?」
「収まりがいい」
それだけ言って、霜刃はまた黙り込んだ。
小枯に初枯を探しに行かせる?里から小枯を出す?
大枯は目が覚めたような思いがした。
あの大男が頭に浮かんだ。
…あいつなら…
小枯を連れて里を出るのに都合がいい。何故かやたらと小枯の世話をやいているし、彼もまた初枯を探している。
勿論危険はある。
危険はあるだろうが、小枯を里から、時雨の縛りから逃がしてやれる。初枯の為であればあの小枯も首を横に振りはしないだろう。
その上もし小枯があの大男を出し抜いて初枯を見つけ出せれば。
初枯も小枯も助かる。
助かった先の目途は立たないがそれは後のこと。
小枯を、里から、出す。
初枯を、里に戻らせない。
考え込む大枯を雨露が興味深そうにじっと見る。天秤の秤がどう動くのか、博打の目がどう出るのか、そういうものを見る目。
その視線にも気付かず、大枯は一心に考え続けた。