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弥栄

第6章 名乗り



「ひとつ提案がある」

雨露が指を立てて身を乗り出した。
胡乱だ。
大枯は身を引いて目を眇めた。

「何だ。聞く価値のある話だろうな。俺も暇じゃない。小枯の様子を見にも行きたいしな。食い物も運んでやらねば」

「食い物なら霜降が差し入れに行っとる。小枯の心配はあの妙な余所者に任せておけばよかろう?小枯に貼り付いて離れんじゃないか。何だあれは」

「…それは話せば長くなるから聞かんでくれ。ちょっと色々事情があるんだ」

「初枯の関わりだろ?」

雨露が言って不覚にも大枯はぐっと詰まってしまった。
否定したら事情を詳しく問われる。あの大男がここにいることを誤魔化す術がすらすらと出て来ない。
何しろあの男は見るだに尋常でない圧がある。ふわふわしたことを言ってもすぐ嘘とばれてしまう。

「知らんなら教えておくが、初枯をビンゴブックにのせた和良の里長がうちの里に圧力をかけてきとる」

雨露の話に大枯がぴくりと目尻を動かした。

「參の神成連がこれを受けて動き出している。有り体に言えば、初枯に里へ戻る道はない。戻れば和良に引き渡されようし、その後どうなるかは知れたことよ。お前らがもし初枯を大事に思うなら、やらねばならんのは狩りを続けて凍みであることじゃない。逃げ出した初枯に里に戻るな"と言い含めることよ。南天のことは諦めさせろ。南天には神成の他の男との縁談が支度されとる。神成が參の牟礼の巫女を手放す訳もあるまい」

南天は初枯の泣き所、筒井筒の恋人、大事な女だ。
そう、初枯は多分、必ず南天に会いに来る。その南天に、よりによって初枯の身内との縁談だと?

怒りを飲んで、大枯は雨露と霜刃を交互に見た。

「で、お前らが凍み鎌の跡につくってんだな?」

「まあそれが提案ってやつだ」

雨露がにやりとした。

「気に入らないか?だがそれが道理だ。そういう取り決めになっておるのはお前も知っとろうよ。わしらがまるきり凍みにならんでもいい。お前と小枯が凍み鎌を続けるならせめて初枯の跡を埋める參の鎌を霜鎌から選ばねばならん」

「お前じゃないか、霜鎌の參は」

「嫌な顔をするな。わしだってお前らと組みたい訳じゃないわ。どうでもわしが嫌ならお前が參の鎌を継いで、うちの霜刃を弐の鎌に据えれば良い。…今の凍みは壱の鎌を動かせまい?小枯を引き入れたはお前らの大功績よ。忌々しい」
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