第6章 名乗り
背後からどんと音がした。
多分小枯が転がっている。霜降がにやりと笑った。
「動いてんな?受け取れよ。食わせてやってくれ」
「食べ物ですか」
「俺んちも小枯んちと一緒で食い物を商ってる。うちの商いは小枯の体の為になるもんが多い」
包みを更に押し出して、霜降は真面目に言った。
そうか、小枯の家は食べ物を商っているのか。
狩りをしても食料を商う生家を持っても、小枯の体は削られた分を回収出来ずにいる。
「うちは獣の肉を食いやすいように、日持ちするようにして外に売ってんだよ。これは肝臓をすり潰して食いやすく味をつけたもんだ。滋養がつくように色々混ぜてあるから小枯の為になる」
やっと包みを受け取った鬼鮫に安堵の表情を浮かべて、霜降は三度中を覗き込もうとした。
勿論それを鬼鮫が遮る。
「今握り飯を貰ってきてやるから、それと一緒に小枯に食わせてやんな。虫養いくらいにゃなるからよ。俺じゃこいつを腹いっぱい食わせてちゃやれねえからなあ」
邪気なく笑った霜降に違和感を覚えて鬼鮫は眉を顰めた。
凍み鎌と霜枯は対立しているのではなかったのか。
「あなた、あの人とどういう関係なんですか。大枯さんやあの人と、あなたたちはあまり親しい仲には見受けられませんでしたが」
「そりゃ立場上はな。こんなちっちゃい里だって色々あるよ」
霜降はあっさり肩を竦めて苦笑いした。
「けど俺はこいつに恩がある。前に熱病が流行ったとき、俺の親父と妹がこいつに助けられてるからよ」
成る程。療養所での小枯が思わぬ縁を生んだのか。
「もしあのとき小枯と小枯の家族がいなけりゃ里のもんは大勢死んだかも知れねえ。だから俺はこいつが弱ってるなら見過ごせねえんだよ。これは凍み鎌と霜鎌とは別の話さ」
小枯を、小枯の家族を労わっているように聞こえる。
が、実際は時雨が里の構造に完全に組み込まれているということだ。時雨がある前提で里が回っている部分がある。殊時雨が強く出せる小枯は。
「わかりました。有難く受け取っておきましょう」
「ああ。そうしてくれよ。早く食わせてやってくれ」
霜降はほっと肩の荷が下りたように笑うと、握り飯を貰って来ると踵を反した。
それを見送って鬼鮫は溜め息を吐いた。
小枯は里をでなくてはならない。