第6章 名乗り
鬼鮫はそれらに次があると思い込んでいたのだ。
次があるなどという思い込みは幻想でしかないと、誰より鬼鮫自身がよく知っていることなのに。
ここで小枯が身じろぎした。
鬼鮫は息を飲んで小枯を凝視する。その鬼鮫の前で小枯は寝返りを打って、溜め息を吐いた。
動いた。
力なく投げ出した腕を大儀そうに動かして頭を掻く。
被った猪の血は雑に落とされただけだから、それが凝って痒いのだろう。
掛布から足が突き出される。また寝返りを打って布団から転げ出て丸まる。
鬼鮫は立ち上がった。
時間を薬に小枯の中の疲労が少し整ったのだろう。大枯の言う通り、小枯の回復力は高い。だが、それもまた身を削って一時的に整っているだけのことだ。燃料は投下されていない。馬鹿な寝相で消耗させている場合ではない。何か腹に入れてやらねば。
寄合所の戸を引き開けたところに、何故か霜鎌の霜降がいた。赤子の頭ほどの包みを抱えて鬼鮫を驚いた顔で見上げる。
「何だ、あんた?」
小柄で括り髪、機転の利きそうなはしこい目をしている。若いのか若くないのかわかり辛い顔つきだが、おそらくは鬼鮫や大枯、小枯と同じか少し下ほどに思えた。
が、そんなことはどうでもいい。
「あなたこそ何です?何の用です?」
「小枯は起きたかよ?」
大柄な鬼鮫にちょっと気圧された様子を見せたものの、霜降は物怖じせず中を覗き込んだ。
「あなたに関係ないでしょう。あの人が寝ていようが起きていようが」
狩りの場を乱した霜鎌がどの面下げて小枯の元に顔を出すのか。
「…別に関擦り合おうってんじゃねえよ。…これ…」
包みを鬼鮫に突き出して、霜降はもう一度中を覗き込もうとした。それを大きな体で遮って、鬼鮫は目を眇めた。
「何ですか、これは」
受け取りもせず包みを見る。
「…差し入れっつうか」
「あなたとこの人は差し入れをするような仲なんですか?」
皮肉気に言うと霜降は思いがけず笑った。
「そうだよ。そういう仲だよ。だからこいつは小枯の喜ぶもんだし、小枯の為になるもんだ。あんたにやるって言ってんじゃねえ。小枯に渡せって言ってんだ」
「あなた、霜鎌の人ですよね?」
「おお。何であんたが知ってるか知らないが、そうだよ。俺は霜鎌の壱の鎌、霜降…て、ああ、大枯に聞いたか。霜鎌を」
壱の鎌。
小枯と同じ役割を果たしているのか。
