第6章 名乗り
小枯は、外傷もないままピクリともしない、村人にとっては”よくわからない”状態で五ン合の村に連れ帰られた。
大枯と霜鎌が協力して持ち帰った猪肉は村で驚くほど喜ばれた。小枯と足を奪われ村を出ざるを得なくなった男のことを思うと苦々しい思いになる。
経巡の里全体がこう貧しいとは思わないが、大枯が自虐したようにこの里は変わる必要がありそうだ。
大枯は沈んでいた。
口数が減って村人とも話さない。村人はそれを疲れと受け取ったが、鬼鮫には大枯の気持ちがわかった。
初枯に続いて小枯も失う恐怖に大枯は怯え始めている。
大枯は頭がいい。そして感じ易い。肝は太いが無神経ではないのだ。
村人の話を齧り聞いて、大枯が三つ山のひとつ、壱の牟礼の長の、惣領息子だということが知れた。
小枯がいっていた凍み鎌以外の大枯の強みはこれだったのだろう。里の話で大枯が恥じ入っていたのが腑に落ちた。
大枯は生まれついて里の構造の内の内にいる自分を恥じていたのだ。
そして小枯の強みは時雨。
皮肉な話だ。その強みは便利がられるばかりで理解されることはない。
鬼鮫は村人が凍み鎌と霜鎌の為に提供した寄合所で目を閉じて動かない小枯を、その枕辺でただ眺めていた。
あれだけ寝ながら動いていた小枯が動かない。
鬼鮫からすれば小枯の使った時雨など全く大したものではない。たったあれだけのことでこうまで消耗する小枯を脆弱と思いかけて、鬼鮫は溜め息を噛み殺した。
違う。
自分のいる世界が異質なのだ。市井の人間はあらざる力を行使して生きていけるほど強くない。
それを本質的には全く理解していなかったことに気付いて、鬼鮫は苦々しく思った。
ならばあの狩りのとき、ただ見過ごさなかったものを。
小枯はチャクラを練れない。だから体を削って異能を使う。チャクラを扱いなれている鬼鮫にはその感覚が身近く理解出来なかったのだ。
小枯の目の下が真っ黒だ。唇も渇いて色がない。
中から削れるというのはこんなにも消耗するものなのか。
この女が目を覚まして下らない話をしたり、優しく笑ってみたり、鬼鮫の肩で清々と独語をもらしたりすることはもうないのではないか。
仕事に荒れた冷たい手で胸を叩くことも、ひどい寝相の挙句鬼鮫の膝に額をつけて寝入ることも、鬼鮫の手を小さな手で包んで労わってくれることも。
そう考えて驚いた。
