第2章 葉簪
振り向いた女が鬼鮫を見止めて変な顔をした。
切れ長の目は深い二重、隈があるのは疲れのせいか身体を損なっているのか。眉間に皺を寄せて眉を下げ、険しいのか情けないのかよくわからない不思議な表情を浮かべている。
これが多分、あの腕の主。
「大枯。お客があるなら先に言えよ。また後で来るよ。失礼しましたね」
ストンと縁側から下りて、小枯と呼ばれた女は鬼鮫にちょっと頭を下げた。
いい年をして人見知りでもするのか、壁を感じさせる目色を浮かべている。警戒でも怯えでもない。疎外物を見る目。
名前から察するに多分この女が3人目の仲間。ではこの女からも話を聞く必要がある。
おや。
フと見れば、女の黒髪に違和感のある彩りが異彩を放っている。
女の左耳の上辺り、こめかみの横にまだ青みの残る楓の赤い葉が載っていた。昼寝中か、落ちたときか、あのときつけて髪に纏らわせたままここに来たのか。もしくは道中木枯らしに捲かれて?
何ということのない、山の女らしく質素なその女のそこにだけ妙な可愛げを覚えて鬼鮫は失笑しかけた。しかけてムッとする。
何が可笑しいのだ?
何も可笑しくない。
「支度はすんだのか?」
問いかける大枯に目を移して、小枯は頷いた。存外素直そうな様が猟師らしくない。
「太刀は持ったか?いつもの小太刀じゃ駄目だぞ。初枯がいないんだから、お前に前に出て貰うことがあるかも知れない」
「使い慣れない得物じゃ反って危ないだろうが」
…いや、素直でもなさそうだ。
「馬鹿。戻って太刀を持って来い」
「だから持ってても使やしないって。お前だって得物を変えて狩りが出来るか?一緒だ、それと」
「俺の太刀を貸すからそれを使え」
「ますます要らないな。何を聞いてるんだ、お前は」
「小枯!」
「うるさいな。お客の前で失礼だ、大枯よ」
「お客はお帰りだ。すいませんがこれで」
軽く頭を下げて腰を上げた大枯に鬼鮫は眉を上げた。
「話はまだ終わってませんが」
「悪いけどこれから出なきゃならないんですよ」
「猟に行くってことですか」
「はあ、まあ」
「いつ戻ります?」
「さあ…。獲物次第ですから」
「仕留めるまで帰らない?」
「大体はそうですね」
「なら私も行きましょう」
「は?」