第5章 猪狩り
ぽつぽつと冷たい雨が降り出した。
「…降って来たか…」
大枯が白い息を吐き出して呟く。
鬼鮫と大枯は、泥場と罠を仕掛けた辺りの中間、細い獣道の走る暗い木立の中にいた。
小枯と二手に分かれてもう半刻、呼子笛の音は聴こえない。
「…ここらにゃもういないのかな」
小枯は獲物が見つからなければ一刻後にここに戻る。そう打ち合わせてあった。だからあと半刻は待つことになる。
小枯の気配は感じられない。近くにはいないのだろう。
「…ひとりで深追いしてなけりゃいいが…」
大枯が顔を曇らせて呟く。
鬼鮫は黙って辺りを見回した。
狩りきれる自信のない獲物を深追いするほど小枯は無謀ではないし、愚かでもない。出来ないことをして周りに迷惑をかけるような真似をする女ではないと、昨日会ったばかりの鬼鮫でもそう思えた。小枯は分を弁えている。自分の体のことも。
大枯は初枯が欠けたことで気が弱って目が曇っているのだろう。
冷たい雨がしのつく。
この雨が小枯の、それでなくとも削れやすい体に触らなければいいが。
「霜鎌ってのは、あなたたちと何か違うんですか?」
雨に濡れながら黙り込む大枯に聞く。
「霜は俺たちが狩れないときに出張る組だ」
「代替要員ですか」
「とも言い切れない。いつもは兎や鹿、時々は若い猪なんかも狩ってる」
「成る程」
凍み鎌は熊や猪などの大物を狩るのが主なのだろう。より危険な狩りに携わっている訳だ。
「今の霜は凍みへの対抗意識が強い。言ったら取って代わりたがってる」
大枯と小枯の話を聞き合わせるに、凍み鎌は山の獲物に関してそれなりに権限がある。小枯は凍み鎌がビンゴブッカーになった初枯が里に戻ったとき、凍み鎌の力が要ることを匂わせていた。ということは、凍み鎌には社会的地位もあるのだろう。
霜鎌とやらはそうした凍み鎌の権限や地位が欲しい訳だ。
「凍み鎌がひとり欠けた今が狙い目ってことですね」
「有り体に言えばそういうことだな。初枯がいなくなってからこっち、俺らの狩り場の周りをうろちょろして邪魔するようになった」
大枯がらしくもない舌打ちをする。
「馬鹿な真似だ。狩りを何だと思っているのか」
「……」
霜鎌は初枯のいない今、凍み鎌にとって替わろうと焦っているのか。