• テキストサイズ

弥栄

第4章 五ン合



「戻って来るさ。うちに帰って南瓜を貰って来なけりゃならないからな」

「…は?南瓜?」

「畑で南瓜が豊作だったから、余録が出た。南瓜はいい。食べ出がある」

近すぎるくらい近くに鬼鮫が立っているのに、小枯はまるで固くならない。
生き物が側にいるような気がしなくて鬼鮫は苛立った。

「猟の合間に暇が出来たら山ほど炊いて食べるんだ」

「あなたの山ほどは本当に山ほどなんでしょうね、きっと」

呆れる鬼鮫に小枯は笑顔を向けた。

「私の山ほどは旨いぞ。私はこれで料理の腕にはちょっとばかり覚えがある」

小枯の笑顔が温かくて眩しいようで、鬼鮫は目を逸らしてまた空を見た。

「そうですか。それなら今度何かご馳走して貰いましょうか。あなたを担いで歩いたお礼に」

「今度?」

不思議そうに言ってから、小枯はああと合点したように口の端を上げた。

「春だな?」

「いいですよ、それでも」

「春なら山菜かな。あんた山菜は好きか?」

「普通の食べ物ならなんだって食べますよ。…いいですか?普通の、食べ物ですよ?」

「…熊の臓物で私の食の美意識を測るんじゃないぞ。あれは不測の事態だったんだからな?」

「大枯さんがあなたは何でも食べるって言ってましたがね?」

「あいつ、余計なことを…」

顔を顰めて小枯は大枯のいる方を見た。

「まあいいや。なら春にな。旨かったら手加減してくれよ?あんたに痛めつけられるのは痛そうだ」

胸にぽんと軽く当たった手の甲を、思わず掌で包むように握りしめると冷たくかさついた手触り。

…駄目だ。距離感のおかしい相手にのせられてこっちの距離感まで狂ってきている。

だがどうせこうしても小枯は何とも思わない。
いや、思わないからこそ問題なのだが。

「手が冷えてますよ。手甲をつけたらどうです」

「手甲は猟のときはつけたくないんだ。手元が狂うから」

「かじかみませんか?」

「体を動かし始めれば暑いくらいだ」

代謝の良さも小枯の問題だ。

ただ代謝がいいならいい。問題は小枯が時雨を使えるということ。

/ 117ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp