第4章 五ン合
「天気が崩れなければいいな」
重たい鉛色の雲が、木立に切り取られらた小さな冷たい空を過って行く。
「足場が悪くなると往生する」
小枯が顔を顰めて言うのを鬼鮫は黙って聞いていた。
足場が良かろうが悪かろうが、また削れるのだろう、この女は。
「腹が減ってきたな…」
小枯が言うと胡乱だ。
「…大丈夫なんですか?」
「大丈夫も何も」
懐から紅い紐を取り出して口に加え、小枯は無造作に括り髪をほどいて手櫛した。
「やってみなけりゃわからんよ」
長い髪を畳むように三つに折り、紅い紐できつく縛る。
「…その紐は?いやに目立つ色ですが」
「こりゃ仕事用だ。私は獣にも仲間にも見つけて貰うのが役目だからな。かと言って真っ赤な着物じゃ流石に目立ちすぎて獣が相手にしてくれない。だからこれ」
垂れ下がる紐の端を持ち上げ、小枯は目を伏せた。
「こういう色は似合わんからあまり気が進まないのだが仕方ない」
「そうでもないですよ。馬子にも衣装です」
「そう言ってくれると気が楽になる。ありがとう」
「どういう受け取り方ですか…」
「いや、大したことないのに悩んでたんだと思えたからまあいいかと、そういう受け取り方…」
「もういいですよ…」
「また怒らせたか?申し訳ないな」
言葉と裏腹に笑う小枯に紅い括り紐は、本当に似合っていた。ほんの少し差し色として入った紅が、色黒で目の下の隈が目立つ小枯の顔を明るくしている。
「しかし成る程、目立つでしょうね、この中でその鮮やかな紅色は」
「だろう?今は紅葉が残っているからそこまでじゃないが、雪が降れば何かあってもすぐ目につく」
「何かあっても?」
「何があったっておかしくないだろ?狩りをしているのだもの」
力任せに殴ってやろうかと思った。
鬼鮫は小枯の傍に立ち上がって、一緒に木立の上の空を見上げた。
「そんな投げ遣りな気持ちで猟をするんですか」
「投げ遣り?何で投げ遣りだと思うんだ?」
「戻ってくる気のない者は無責任な仕事しかしませんよ」
「…おお。成る程なぁ…」
小枯が妙に感心して鬼鮫を見上げた。
「あんたいいこと言うな」
「あなたに褒められても嬉しくありませんね」
「そう言わずに喜んでおけよ。けど言っておくが、 私も死ぬ気で狩りをしてる訳じゃないぞ。当然」
「…だといいですけどね」