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弥栄

第4章 五ン合



猟場について先ず大枯と小枯は罠を仕掛け始めた。

「賢くて罠には掛からないんじゃなかったんですか」

腕組みして眺めながら尋ねる鬼鮫に大枯が答える。

「かかるのを待つんじゃない。罠に誘導してかかるようにする」

「誘導?」

「小枯の仕事だ」

だからそっちに聞けとばかりに大枯が小枯の方に顎をしゃくる。
小枯は藪の中にしゃがみ込んで作業している為姿見えない。身動きの度カサカサいう葉擦れの音だけが小枯がそこにいることを知らせている。

藪に分け入った鬼鮫はすぐに小枯を見つけた。背を向けて屈みこみ、掘った土に罠を隠している。見るだに頼りない背中だ。朽ち葉色が隈笹の藪の、緑に白い隈取のある葉の重なり茂った中に沈み込むように見える。

「不用意に動くなよ。あちこちに罠があるから」

振り向きもせず小枯が言う。

「あんまりそこらを荒らさないでくれ。あんたは大きいから跡が残り易い」

大枯でなく鬼鮫が来たことを見もしないで理解している。聞き慣れた大枯の足音と聞き分けたのだろう。

「時間がないから罠は縦掛けだ。ちょっと触っただけで発条が跳ね上がって足を絞めるからな。気を付けてくれよ」

「…気を付けましょう」

「本当は邪魔なんだ。来て欲しくなかった」

と、言って責めるようでもなく、鬼鮫は淡々と罠をしかける小枯の横に屈み込んだ。

真剣な横顔を見る。
隈が目立つ。この隈は消えることがあるのだろうか。

「自信のほどは?」

「自信?変なこと聞くな?」

ふうと息を吐いた小枯が鬼鮫を見る。見て、思いがけない近さにいたことに驚いたのか、体を揺らして尻餅をつきそうになった。その腕を掴んで鬼鮫は口角を上げた。

「変なことですか?何故?」

「捕まれば捕まる。捕まらなければ捕まらない。違うか?」

「自信があるかどうかではない?」

「他は知らないが私はそうだ。いつだって確信はない」

小枯は腕を掴んだ鬼鮫の手をぽんぽんと軽く二度叩き、木立の隙間から覗く空を見上げた。

「中天を過ぎた。そろそろ始める」

「猪の居場所はわかってるんですか?」

「今朝方ここらの泥場に現れたのを村の人が見ている。その近くに当たりをつけて動く」

小枯が鬼鮫の手をやんわり外した。固くかさついて冷たい手が鬼鮫の手に触れてすぐ離れる。あやすような優しい触り方。

癇に障る。
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