第4章 五ン合
大枯におっとり止められて、小枯はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「調子はどうだ。戻ったか?」
「ましなほうだ。歩かぬですんだのが効いている」
「良かったですねえ」
皮肉たっぷりで言ってやれば、小枯はまたふんと鼻を鳴らした。鬼鮫をちらりと見て顎を上げる。
「あんたに負ぶって行くように頼んだ私の手柄だ」
「…物凄い”物は言いよう”ですねえ」
「私の見る目があったということよ。あんたの肩は居心地が良かった。さぞ鍛えているのだろうな」
鬼鮫は拍子抜けして小枯を見下ろした。
「…そうですか。それは…どうも」
抱え上げた小枯の体の感触を思い出す。
しなやかで反射がいい。動いて鍛えている体だ。肩と腰骨がしっかりしていて重心を低く取り慣れているのが伺えた。
しかし如何せん細い。細くて頼りがない。
もっと食べて太らねばと思い、鬼鮫は考えるのを止めた。それは酷というものだ。
この女は太りたくても太れないのだから。
「体幹がしっかりしている。山道でも体がぶれないのは大したものだ。そういう体が羨ましい」
言葉通り物欲しそうに体を見られ、鬼鮫は顔を顰めた。
「あなた本当に情緒がない。もう少し弁えなさい」
「何故?褒めているのに」
「…異性の体を不躾に眺めるもんじゃありませんよ」
「なんだ、そんなこと」
小枯は気軽く笑って、鬼鮫の胸をぽんと掌で叩いだ。小さな手の軽い感触。
これは小枯の癖なのだろうか。
「大丈夫だ。私がそうと思わなければ私にとってあんたは異性じゃない」
…物凄いことを言い出した。
「ちょっと小枯さん…」
「何だ?猟場まで担いで行ってくれるのか?」
「何図々しいこと言ってるんですか。あなた本当によくないですよ」
「悪いことをしたか?それは悪かったな。…ん?でも何をしたっけ?あ、図々しいということか?いや、大丈夫だ。冗談だから」
「…担ぐのは構やしませんよ。大したことじゃない。そういうことじゃなくて……」
頭が痛くなってくるというのはこういうことを言うのだ。
異性観が雑過ぎる。
自分の性への自認も薄い。他意なく他人との距離が近い。人の言動の裏を読むことをしない。
危なっかし過ぎる。
「こいつはこういう奴なんですよ」
のんびり言う大枯に鬼鮫は厳しい目を向けた。