第4章 五ン合
しかし小枯を見ていると嫁入りが現実的とは到底思えない。嫁いでもあの女は仕事の量を減らさないだろうし、時雨を出すことも止めないだろう。
子供どころか早晩破綻するのが目に見えている。
「小枯。行くぞ」
大枯の呼び声に小枯が話を切り上げてこちらへ歩いて来る。
足取りが確かなように見えないのは思い込みの目で見るせいか。今日の小枯はどれくらい疲れている?
小枯を知らない鬼鮫にその度合いは読めない。
「本当にここの村長は縁組が好きだな」
ちょっと気疲れした様子で小枯が頭を掻く。
案の定。しかしよくこの女に縁談を持ち込む気になるものだ。
「人を縁付けるのが好きな人もあるものさ」
あっさり流す大枯に小枯はふんと鼻を鳴らした。
「許嫁のある者は余裕だな。来る春には祝言だ。浮かれて怪我なぞするなよな。私が小桑に恨まれるわ」
ほう。
さっき大枯が赤い顔をした訳が知れて鬼鮫は僅かに笑った。わかりやすい男だ。
「小桑は人を恨んだりせんよ」
「わからんぞ。人を好いた者の心は慮外なものだというからな」
「お前が言っても腑に落ちん」
同感。
「やれやれ。連れ合う者がないと肩身が狭い」
小枯が渋い顔をする。大枯が真顔になった。
「連れ合い云々の前にお前はもう少し人の心の機微を身に着けろ」
「どうやって身に着ければいいんだ」
「そういうことを聞くから駄目だ。お前はいい年をした大人のくせに、子供じみたところがある」
「悪かったな」
腕組みして不愉快そうな小枯に鬼鮫はふっと笑った。
「…何だ。あんたまで愚弄するか」
「まさか。愚弄する程あなたのことを知りませんからね」
「じゃ何で笑った」
「子供じみて見えるのは私だけじゃなかったんだと思いましてね」
「愚弄してるじゃないか」
「してませんよ。私がしていないと言えばしていないんです。わかりますか?」
「私がされたと思ったらされたことになる。わかるか」
「ならされたと思わないことです。私はしてませんからね」
「されたと思わせるな」
「勝手に思い込んで文つけないでくれますかね」
「お前、言ったからその通りになると思うなよ。人に思わせたらやったも同然だ」
「言いがかりですね」
「いいや。言いがかりをつけてるのはあんただ」
「よせよせ。狩りの前に揉めると験が悪くなる」