第4章 五ン合
そして何より躊躇いなく熊の口に腕を突っ込んで仕留める肝の据わり方が良い。
”ただの人”があそこまで手際よく獣を狩るものとは思わなかった。
「まあ今日の狩りもうまくいくよう、精々祈っててくれ」
ぽんと鬼鮫の胸を掌で叩いて、小枯は大枯の方へ小走りに去った。
距離感がおかしい。
いや、自分も人のことは言えないが。
どうも調子が狂う。
小枯の頬を撫でて叩いた我の手をじっと見て、鬼鮫は顔を顰めた。
昨日の今日で、随分気を許してきているのが不思議だ。初枯の居所を探りに来たきな臭い鬼鮫を、大枯も小枯も受け入れ始めている。気が良すぎるのか馬鹿なのか。
いや、馬鹿ではない。むしろ油断ならないところがある。逆に探りを入れて来た大枯、里の内政について語る小枯、明らかに愚鈍ではない。
罪を贖わせる為なら初枯を連れて行っていいと言う大枯、初枯の帰りを疑わない小枯、初枯の居場所を守る為、数が欠けても狩りを続ける凍み鎌。
ふたりとも初枯が里に戻る前提で動いている。
しかも小枯は初枯が早いうちに戻ると断言していた。そう信じる根拠が何かあるのだろう。そう思ったから鬼鮫はここに残った。
実際初枯を鬼鮫が連れ去ったとき、ふたりは何を思うだろう。
謗られようが罵られようが一向に構わないが、初枯の先行きをふたりは本当に理解しているのだろうか。
依頼者に渡されたビンゴブッカーはその先依頼者の胸先三寸でどういう立場に落ち込むか知れたものではない。生きて帰らぬ者も多い。
暁に依頼を持ち込むような者相手なら尚更。
大枯と小枯が村人と山の南側を指して打ち合わせしている。
その辺りに大猪が出ているのだろう。
大枯が村人に手を振って、何かを断る仕草をしている。小枯が大枯の背中をぱんと叩いて笑う。村人が拝む仕草をしてふたりは居住まいを正し、丁寧に礼をする。
…何を話しているのだろう。
大枯が近づいて来る。
「そろそろ出ますが本当についてくるんですか?」
でなければここまで来ていない。
「行きますよ」
「いざ大猪が出たらあんたにかまっちゃいられなくなる。…まあ、あんたに心配は要らなさそうだけども」
頭の先から足の先まで、改めて鬼鮫を見た大枯は首を掻いた。
「強いことと狩りはあまり関係ない。怪我をしないよう気を付けて」