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弥栄

第4章 五ン合



「そうだな。なら待っているよ。来ても来なくても構わないが、先にそういう予定があるってのはなんだかちょっと面白い」

「それが痛めつけられる予定でも?」

「うん。誰かが私を訪ねてくる予定があるってことが楽しい」

笑い顔に邪気がない。温かい笑い方をする女だと思った。それが痛々しい。

多分この女は普通に年老いて普通に死ぬことはないだろう。このままここに居れば。

それが理不尽なことのように感じて鬼鮫は思わず小枯の頬に手を伸ばした。
きょとんとする小枯の頬を撫で、鼻をつまむ。

「精々甚振り甲斐があるよう、健やかでいなさい」

「あんたに甚振られる為にか。はは、そうか。頑張るよ」

「頑張るのは止めなさい。寿命が縮まりますよ」

「ふん?そうかね」

恐ろしく自覚がない。
そして無防備すぎる。
鬼鮫に触れられて身体を固くすることも動揺することもない。頬を撫でられても鼻をつままれても、ただそのまま受け入れている様子。鬼鮫のしたことの意味を読もうという意思がまるでない。

もっと自分を大事にしなさい。

言いかけて止めた。また噛みつかれる気がしたからだ。
それにこんなぬるい言葉をかけたところでこの女を取り巻く状況は変わらない。里を出なければ自分を大事にする暇もないだろう。

私は私を大事にすると言った、昨夜の小枯を思い出す。
全然大事に出来ていない。やり方を知らないのにやらなければならないと焦っているように思えた。

やり方を知りたがってくれれば教えてやることも出来る。里を出て時雨を出さずにすむ生活をするのでも、チャクラの練り方を覚えて体の負担を減らすのでも、鬼鮫ならそのやり方を教えてやれる。
しかしこの女は自ら望まなければそのいずれも求めないだろう。他人から提案を受けたところで流してしまいそうだ。里への、里人への思いが小枯の寿命を削っている。

ふと我にかえった。

…何故私がこの女の先行きの心配をしなければならないのか。

急に馬鹿馬鹿しくなって、鬼鮫は小枯の頬を軽く叩いた。

「昨日の熊狩りは見事でした」

「おっと。あんまり褒めるなよ。調子にのるとろくなことがないからな」

「本当のことを言ってるだけですがね」

粗末な得物で無駄なく熊を仕留めた。大枯との連携も見事、時雨の出しどころ、狙いどころも狂いない。
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