第4章 五ン合
「…それは…面白いな…」
「…本気で言ってます?」
「…いや、強がりだ。うん。正直に恥ずかしい」
また素直。扱い辛い。
「なんだって今まで誰も教えてくれなかったんだ…」
「あまりに規格外だと反って指摘し辛いものですよ」
「規格外…」
「どこから突っ込んでいいかわからなくなりますからね。あなたの食欲もそんな感じですよ」
「それは…それも恥ずかしいな…」
「それは仕方ないでしょう?食べないと保たないらしいじゃないですか、あなた」
「とは言え」
「ええ、尋常じゃないですねえ」
「困ったものだ」
「困ってるんですか」
「本当は美味しいものを味わって食べたいんだけどな」
「…美味しそうに食べてましたよ?」
「…別に熊の臓物は好きじゃない」
「それは意外だ。あんなに沢山凄い勢いで食べていたのに」
「昨日は疲れてる上に時雨を出したからなあ」
「夏の疲れですか」
鬼鮫に指摘されて、小枯は苦笑いした。
「なかなか体が戻らなくて往生している。段々戻りが遅くなってるようだ。疲れが溜まってるんだろうな」
「ちゃんと休んでるんですか?」
「ちゃんと食べて寝てるぞ。昨日見ただろ」
「そういうことじゃなく…」
鬼鮫は小枯を見下ろして言い淀んだ。
この女に余暇というものはあるのだろうか。
怠そうで面倒そうで、なのにだらだら怠けているところが浮かんで来ない。
「まあ春狩りが終わればちょっと楽になるから」
屈伸しながら小枯は事も無げに言う。
春が来れば。
その春はまだまだ先だ。今は未だ初冬。春狩りが終わる時期が訪れるまでこの女はどれだけ時雨を出して、どれだけ削れるのだろう。何頭の獣を狩って、何度危険な目に遇うのだろう。
「あなた、春になったら私に痛めつけられる予定があるでしょう?」
「ん?ああ、言ったな、そんなこと」
「言ったなそんなことじゃないですよ。弱ってるあなたを痛めつけてもつまらない。まして死なれでもしたら全く面白くない。春にはちゃんと回復してなさい。痛めつけ甲斐があるように」
「何だ、春にまた来るつもりなのか」
「あなたが言い出したんですよ?」
「変な奴だな」
小枯は腰に手をあてて鬼鮫を見上げた。体をほぐしているうち肩から体の前に垂れて来た括り髪を後ろに払いのけて、くすっと笑う。