第4章 五ン合
「そう、危ないわよ。それにね。凍み鎌に迷惑をかけちゃいけないの。狩りの最中にあたしたちに何かあったら、それも小枯さんたちのせいになっちゃうんだから」
若い娘が子供を窘める。
「難儀なことよな。お前さんたちが悪いわけでもないのに」
年寄りが眉を下げて小枯を見る。
小枯はにっこり笑って子供の頭を撫でた。
「後でたんと狩りの話をしよう。だから家で待ってるんだ」
それから娘に目を移し、また目尻に皴して滑らかに笑う。
「勿論あなたもだ。報せが回ったら必ず家から出ないこと」
子供が頷いて、若い娘が何故か顔を赤らめる。
驚いた。何だ小枯は女にモテるのか。
それにしても凍み鎌の影響力は侮れないものがある。
全くの部外者、どう見ても胡乱な鬼鮫を、凍み鎌の同行者というだけであっさり村に引き入れてしまった。村人に拒絶の色もない。
凍み鎌の信用がそれだけ厚いということだ。
村人の輪が崩れて一人になるとー実際には鬼鮫が隣にいるわけだがー、小枯はまた欠伸を連発して挙句、
「何か食べるもの、持ってないか?」
と、鬼鮫を見上げた。
脱力。
「…村の人にねだったらいいじゃないですか。今の様子ならこぞって持って来るんじゃないですか」
「村の食料に手を出すわけにはいかないだろ。供給元が需要先のものを貪ってどうする」
「完全に一方的な需要と供給ですがね」
「他の部分で私もその一方的な需要を享受している。みんなお互い様だよ」
小枯はここで鬼鮫に悪戯っぽく笑いかけた。
「けどあんたから貰う分は勘定に入らない。あんたは外で貰って外で与えてるからな。余禄があるならあやかりたい」
「他所から貰う分には里の懐は痛まないということですね」
「痛くも痒くもないな。逆も然りだろ。あんたもこの里から搾取したところで痛くも痒くもない筈だ。自分のものじゃないからな。まあこの里にあんたが欲しがるものなんかありそうにないがね」
「それはあなたが決めることじゃないでしょう?」
鬼鮫の言葉に小枯が目を細める。
「…ふうん?何かあったかな、この三山家に?」
「三山家は外での呼び名でしょう。この里は経巡、三山家は外からつけられた蔑称だ。自己卑下するように里を呼びつけるのは止めなさい」
冷たく言われて小枯はぶたれたような顔をした。