第2章 葉簪
分不相応な賞金のかかった若者の名は初枯。
姓名ではない。通り名だ。
三山家の民は主に通り名で呼び合う。家族間でも日常的に通り名を使う。姓名は魂を司るものとして扱い、易易と他に明かさないことになっている。
「まともな名乗りが出来ないとはねえ」
鬼鮫は薄笑いして相対して座る男をじっと見た。
がっしりした長身の男だ。
身丈が僅かに及ばないだけで、鬼鮫と体格はそう変わらないだろう。
愛想が良い訳ではないが粗暴さもない。
淡々とした朴訥な印象。
いかにも山の者という雰囲気だが、頭が鈍そうでもない。
「特に不自由はないですよ。よその人から見れば礼儀知らずに見えるんでしょうが」
大枯と名乗ったこの男は初枯の狩り仲間だ。他にもうひとりと組んで、三人で猟をしているのだという。
「で?初枯に何の用ですか?」
淡々と聞かれて鬼鮫は目を眇めた。
「初枯さんとやらはここにいらっしゃいますかね?」
いないのは知っている。
ビンゴブックに載る直前、大枯が里を抜けたという情報は確認済みだ。大枯は自分がビンゴブックに載ることを知った上で里を抜けている。
「初枯はここには居ません」
特に感情を表すこともなく大枯は鬼鮫を見返した。
「初枯に何の用です?」
問いに答えろということだろう。重ねて問われた鬼鮫はまたうっすらと笑った。
「何処に居るかご存知ですかね?」
これが鬼鮫の聞きたいことだ。
聞けば三山家は飛び道具を使わない狩りをするという。まあ、忍びでもない連中が火力もない得物で狩りなどすれば命懸けになるのは必定だろう。互いに命を預け合うだろう猟師仲間なら親しくない筈がない。
あてもなく馬鹿な若者を捜し回るより、行方を知る者を締め上げて居所を聞き出した方が早い。
「初枯は行き先を言わずに出て行きましたから」
「行き先を聞かなかったからといって、それを知らないことにはなりませんよ」
大枯の答えに対し、鬼鮫は間髪を入れず切り返した。
大枯はここで初めて、鬼鮫をまじまじと見た。気を入れて見た、というべきか。
興味の動いた気配。
「初枯さんは何処です?」
圧をかけて問うた鬼鮫に、大枯はほんの少し笑みを浮かべた。
「もし知っていても言いません」
「ほう?」