第4章 五ン合
「背負うのではなく抱え上げるのではどうです?私も得物をを置いてはいけませんからね」
「歩かずに五ン合まで行けるならなんだって構わない」
炉の火が落ちているから寒い。小枯がますます丸くなった。
「そんなモンを背負って歩いているくらいだから力自慢なんだろう。都合がいい」
丸まった姿が猫か鼠のようだ。
その猫か鼠みたような一見弱げな女に都合がいいと言われる自分が可笑しくて鬼鮫はふっと笑った。怒る気にもなれない。
「熊の始末で出立ちが遅れてるからな。私がふらふらして迷惑をかける訳にいかない。助かるよ」
薄々思っていたが、小枯は唐突に素直になることがある。
虚を突かれるような思いをするので、これはあまり好きではない。
いざ出立ちしてみると、何故小枯が大枯に負ぶわれようとしなかったのかわかった。
大枯は捌いてまとめた大量の熊肉を野小屋にあった背負子に詰めて担いでいる。その重量は小枯と同じかそれ以上に見える。
「五ン合で皆に配るんですよ」
鬼鮫の肩の上で腕をぶらぶらさせながらまたも眠っている小枯を流石に呆れた顔で見ながら、大枯が事も無げに言う。
「これと猪の肉がありゃ当分五ン合は食うに困らない」
凍み鎌は猟をするだけでなく、その取れ高をどこにどう分配するかも担っているらしいことを匂わせる言葉だ。
「小枯。頭に血がのぼるぞ」
「休み休み寝るから大事無い」
「何が休み休みだ。血でのぼせるぞ」
「うるさいな」
やおら鬼鮫の首に手をかけて、小枯が体を起こした。肩の上で体を反して肩の上に収まりよく座る。
「こうしたらいいだろ。いっこうに疲れずにすんで有難い」
肩に猿や貂をのせているような気になって鬼鮫は顔を顰めた。
「しかしこの客人は体幹がいいな。うん。揺るがないから身を預け易い。大枯も見習ったがいいぞ」
「そうだなあ。俺は鍛え方が足りないようだ」
大刀と小枯を背負って淡々と歩く鬼鮫に大枯も素直に感心する。
「人里にもこんな力自慢がいる。世界は広いな」
小枯の声が素直に楽し気で鬼鮫は目を眇めた。
「里の外に出たことはありますか」
「あるよ。あるが暮らしたことはない。私の世界は本当に狭い」
卑下するでもなく、変わらず楽し気に言う小枯がわからない。
「出てみたいとは思わないんですか」
「出たいと思ったら出るよ。だが今のところ思わない」
