第4章 五ン合
「触りますよ」
もう一度言ったらば、小枯が無精げに目を開いた。
「…どうでも触りたいなら私を五ン合まで負ぶって行ってくれ。猟まで消耗したくない」
「……」
何なんだ、この女は。
「大枯さんに頼んだらどうです」
「大枯にも消耗して欲しくない」
「私は消耗してもいいと?」
「駄目な理由があるか。初枯と猪を狩ることに直接関りはないだろう。あんらはあんたの目的の為に消耗することはない。散歩だと思って私を負ぶって行ってくれ。その身体なら造作もないだろ?それならいくら髪を嬲ってくれて構わない」
話すのも勿体ないという様子で眉間に皴して言う小枯が、鬼鮫にはわからない。
「安売りしないんじゃなかったんですか」
「何が安いか高いか、あんたと私じゃ違うだろ」
切り捨てられて鬼鮫の口角が上がる。
「背負うことになれば髪に触るどころのじゃありませんが?触られるのが嫌なんじゃないんですか」
「どっちだっていい。今は邪魔だから止めて欲しかっただけ」
いよいよ眉間の皴を深めて小枯が煩わし気に言う。
「触りたきゃ触ったらいいよ。ただ邪魔じゃないときにしてくれ」
…邪魔じゃないとき?あるのか?
「私は狩りの時期以外飽きるだけ人に触って触られて過ごしてる。相手が誰だろうが変わりはないんだよ。大した意味はないからあまり考えこまなくていい」
療養所の話か。
「年寄りに触れるのも私に触れるのも変わりないということですか」
「あるわけないだろ」
また切り捨てられる。
「もういいからあっちへ行ってくれ。歩くなら話していないで寝ていたい」
苛々が爆発しそうになっている。そうなればどうなるのか見てみたい気もしたが、鬼鮫は大人しく立ち上がった。
「あなたを背負うとなれば私の背負っている大刀は大枯さんの背中に預けることになりますが構いませんか?」
「置いていけよ。後で取りに来たらいい」
勝手なことを言う。
「大体山の中じゃそんなモン邪魔にしかならない。木に刃を取られるし、藪に絡まる。場所を考えて使わなきゃならないような得物は不相応なところに持ち込むもんじゃないぞ」
「私はこれ以外使わないのでね。手放せない」
「ふぅん。不自由なことだな」
…この女に自由不自由を言われたくない。