第4章 五ン合
結局小枯はひとりで熊の臓物をほとんど平らげた。
大量の水を飲み下し、伸びをして欠伸を漏らす。
「眠い」
…何なんだ、この女は。
その後の荷造り中も小枯は怠そうに欠伸を連発していた。よろめいたりこけたりしながらさんざ危なっかしい様を晒して、挙句出発直前に炉端で丸まって寝直してしまう。
…驚く程馬鹿な生き物だ…
小枯の奇行が常態なのかどうか、鬼鮫は大枯の様子を見て判断するようになってしまった。
こんな小枯に慣れている大枯が驚いたり動揺したりしたら、それはこの場限りの異常事態になる訳で、しかしこの朝大枯は一度も驚かなかったし、動揺もしなかった。
いや待て。おかしいだろう流石に。
火の落ちた炉端で丸まって眠る小枯に鬼鮫はほとほと呆れた。
こんな女は見たことがない。いや、男でもみたことがない。まるで動物だ。
相変わらず小枯は鬼鮫を、ないように扱う。疎外者を見る目の壁は今朝からなくなった。しかし鬼鮫を空気のように扱うようになった。
つまり、全く目に入っていない様子なのだ。
「時雨を見られたからね」
大枯が苦笑いする。
「里人以外で時雨を知ってる人は少ない。小枯も時雨のことになると構えちまうから、いっそ見られて気楽になったんだな。こっからはどんどん気安くなるぞ」
自分の異能を余所者に知られたくなくて身構えていたのか。それにしても気楽になり過ぎだ。呆れて怒る気にもなれない。
「難儀な人ですね」
たかだかあの程度の力でここまで消耗する小枯を見ていると、昨日感じた憐れみがもどかしさに変わる。
制御さえ出来ればここまで振り回されることもないだろうに。
鬼鮫には、時雨に振り回されて本来の小枯が何なのか、周りにも本人にもわからなくなっているように見えた。実際鬼鮫自身も最早何が小枯だかわからない。時雨の削れに支配された小枯は混沌としている。
炉端で丸まる小枯は昨夜より安らかだ。腹にそれなりの燃料が入ったせいか。黒い括り髪が腰の辺りに纏わって煩わし気に見える。乱れ方が気になって毛先に触れると、小枯がぱちりと目を開いた。
「触るな」
鬼鮫をひと睨みしてまた寝入る。
「触られたくなければ起きたらいい。寝直せばまた触りますよ」
丸まる小枯の傍らに立ち膝をついて言い返す。
小枯は起きない。微かに眉根を寄せただけ。
聞いてはいるのだが面倒がっているのがわかる。
