第4章 五ン合
小枯はよく食べる。
昨夜は大枯と鬼鮫と大人しくひと鍋の夕飯を分け合って食べ、風呂桶いっぱいほどの水を飲んで糸が切れたように寝た。
全く警戒心のない寝方に鬼鮫は呆れた。
何しろ寝相が悪い。更には遠慮がない。
野小屋の壁まで転がっていって頭をぶつける。
土間から落ちて覚醒しないまま炉端に戻って来てすぐ寝直す。
大枯を蹴る。
鬼鮫に頭突きする。
鬼鮫は小枯のせいで途中から完全に目が覚めてしまった。
炉端で丸まる。暑くなると眉根を寄せてまた壁際へ転がる。
また寒くなると大枯の背中に背中を合わせる。
暑くなって壁へ足を預けて妙な恰好をする。
またも寒くなったのか炉端に転がって戻り、炉端に座って呆れながら自分を見ていた鬼鮫にぶつかって起き上がり、寝惚けながら鬼鮫の顔を見て頭を掻いてまた寝直す。邪魔らしく鬼鮫を肘で押す。大枯の背中を蹴る。土間へ上半身落として寝る。
挙句胡坐をかく鬼鮫の足に額をつけて力尽きたように動かなくなった。
死んだように寝るものかと思っていたのに、ひとりでひたすら消耗している。
何て馬鹿な生き物だ…
この女が消耗するのは時雨の問題ではないのではないか。これでよく木の上で寝たりしたものだ。落ちて当たり前だ。
戸惑いながら迎えた朝。
大枯と小枯は手際よく熊を解体して皮と肉と臓物を分け、要らない部位は土に埋めた。沢水に皮を晒して流されないように杭で止めー後で回収するのだというー、肉は切り分けて油紙で包んで麻袋におさめ、臓物は朝飯に料った。
朝から熊の臓物。
鬼鮫も立場上口に入るものなら何でも入れて生きてきた部分はある。ゲテモノも食べて来た。
しかし朝から熊の臓物。
極限状態にいるのでも何でもないのに朝から熊。しかも臓物。
正直全然食指が動かない。
大体捌いているときから獣臭さが尋常でなく、それだけで食欲が失せる。
これが山の民というものかと思えば、大枯も鬼鮫と同じくあまり食の進まない様子。
ただひとり、小枯だけが黙々と熱心に熊のモツを食べている。
味噌煮にした熊の臓物は下拵えに割く時間がなかった為に猛烈に獣臭い。
小枯はそれを平気な顔で食べる。特に美味しそうという様子はない。ひたすら燃料を入れているように見える。
「心臓なら食い易いですよ」
大枯が気を使って言うが、全然要らない。