第3章 小枯
大枯が小枯に水の入った湯呑みを手渡した。
「ありがとう。色々悪いな、大枯」
「悪いことがあるものかよ。明日行けそうか?」
「行かなくてどうする。どうでも狩って霜の連中に足元を掬われぬようにしなければ」
前を睨みつけ、小枯は湯呑みの水を一気に飲み下した。
「あいつが里を抜けるのは今じゃない。早いうちに初枯は必ず帰る。そのときに凍みがなくなっていたら、初枯を庇うものが減ってしまう」
「神成連が居ようが」
「あれは初枯の身内であって身内ではない。利害が絡むなら初枯は捨てられかねない。分かっているだろう、大枯」
「凍みの言い分が何処まで支持されるか…」
「そこが腕の見せどころよ。お前にも私にも、凍み以外の強みがある。せいぜい里人に嫌われぬよう、腹を据えてかかるのだな、大枯」
小枯の不機嫌そうな顔に人の悪い笑みが浮かぶ。
それが存外見れた。初冬、まだ青い植生の残る水辺の、薄氷の張った凍てた風情。
小枯が初枯は帰ると言い張るその一点に賭けて鬼鮫の腹が決まった。
山を下りるのは見送る。