第3章 小枯
「足りてないんじゃ仕方ないでしょう?」
昼間獣道で見た小枯の腕が薄気味悪かったのは小枯の生気のなさ故だったのかも知れない。
力なく垂れて風に揺らされていたあの腕は、夏に生命力を使い過ぎた小枯という女の残滓のように思えた。
「…この調子じゃ猪狩りは無理でしょう」
「ちょっとすりゃ目を覚まして飲み食いを始めます。そうしてひと晩寝れば随分落ち着いて猟くらいなら出来るようになる」
「…猟くらいなら?そうですか」
鬼鮫は小枯へ僅かな憐れみを覚えた。
この女がもしチャクラの練り方を覚えることが出来れば状況は変わるだろう。体への負担を減らせる。時雨を出す力も強くなる。
だが、そんな必要はない。
忍なんて業の深いものになるくらいなら、このまま里の為に死んだ方がこの女の為というものだ。
育ててみれば面白そうだと思わなくもない。
時雨という力は鬼鮫の水遁と相性が良さそうだ。だが、わざわざ面倒な思いをしてまでどうこうしたいと思える程でもない。
中途半端なのだ。力が。
日常に根ざせる程度。利便性はある。異能としては扱いが軽く、手妻程度にしか思われない。なのに代償は確かで年中削れて、でも手妻なら大したことがないという周りの思い込みで、小枯の怠さや投げ遣りさは本人の性格ということで片付けられてしまう。
本人が言えばいいことだが、何となくこの女はそういうことを言わないように思えた。
「お客さん。こいつを舐めちゃいけない」
割いた晒しの残りを小枯の腕に巻きつけて、大枯が鬼鮫を見る。
「これで回復力も並外れてる。ただ、削れた分がそれに追っつかないんだよ」
「追っつけるだけの燃料がないからでしょう」
「正直こいつが満足するまで食わせてたら身代が潰れる」
…いや、真顔で言われても…。
「そんなに食べるんですか。代謝がいいんですね、この人」
「底なし沼に食い物を投げ込んでる気になってくるからね」
「食べ物の無駄みたいに聞こえますが」
「そういう意味じゃなく。本当に底が見えないってことさ」
「そういう相手に腹いっぱい食べさせてやったらさぞ甲斐性を感じるでしょうねえ。全く興味ありませんが」
「甲斐性を感じる暇もなく文無しになるって話です。…まあうちの里はみんな文無しみたようなモンだけど」
急に自虐に走った大枯は里の話になると少し感じ易いように思える。
