第3章 小枯
「そこは私も興味がありますね。まああなたと方向は違いますが」
「あんたも知りたい?何で?」
「何の為に動いているのかわからないとすっきりしない性分でしてね。まあその程度のことです」
だから特に知ろうともしない。
「…あんたが何をしてるんだか知らないが、そういう性分ならもっとわかり易い生き方をした方がいい。胡乱なことに関わって何でもかんでも知りたがるようじゃ擦り切れちまうだろう」
鬼鮫の眉がぴくりと上がった。大枯が笑う。
「怒らせたか?けど怒るってことは心当たりがあるってことだ。俺なんかに腹を立ててないでよくよく考えてみたらいい」
鬼鮫が口を開きかけたとき、表から音がした。
ガゥンと重い音。
まるで釜か何かを取り落としたような。
大枯が無言で立ち上がり、傍らに置いた槍を手に野小屋を飛び出した。
小枯に何かあったか。確かに夜の山は危ないようだ。しかし山に生きれば山に死ぬのも多分にあること。
まして猟師ともなれば。
鬼鮫は沸き立っている鍋を炉から下ろし、ゆっくり土間へ下りた。
表から大枯の声がする。
下生えを走るような音、獣の唸り声、そして小枯の声。低いのにいやに鮮明に聞こえるのは、腹に力の入った潜声だから。
「邪魔だ大枯。出張るな」
…邪魔?
訝しんだ鬼鮫は引き戸に手をかけて表へ出た。
獣臭が強い。開け放った戸から漏れた灯りが鬼鮫の身丈を更に上回る熊を照らし出した。
熊の正面に小枯、斜め右後ろ、野小屋に近い位置に大枯がいる。
小枯は熊をじっと見たまま、腰を落としてじりじりと後退りしている。熊は立ち上がっている。威嚇の姿勢、攻撃の前触れだ。
鬼鮫は興味深くこれを見守る。
大枯も下手に動いて熊を刺激しないよう息を詰めている。
熊の標的を小枯にしたまま。
小枯の後退る足の踵が木に触る。これ以上は下がれない。小枯は熊の間合いの中に閉じ込められた。
死ぬか。
微動だにせず見守る鬼鮫の視線の先で、熊が小枯の顔目掛けて前脚を振り抜く。小枯は屈み込んでこれを避け、そのまま右に、つまり大枯と鬼鮫のいる野小屋側に転がった。
足を踏ん張ってバネのように立ち上がり、小枯は木の枝に手をかけた。くるりと体を反転してそのまま木の上に立ち、大きく両手を振り上げる。
「止めろ、今はいい!何とかなるから小枯!」
大枯が叫んで熊を引きつけようとした。
