第3章 小枯
大枯に突っ込まれて鬼鮫は珍しく詰まった。
療養所と家の手伝いをして夏疲れするような凡庸な女なら、狩猟などに関わらせても成果は上がらないだろう。無理に猟をする必要があるのか。
そういう内心を見透かされた気がして自分に腹が立った。
「何処で何をしてたって辛いは付き物でしょう。小枯がやると言ってる限り、狩りから外れることはありませんよ。こっちも小枯が必要なんでね」
大枯は炉に細い朽ち木を折り入れて、穏やかに笑った。
「初枯だってそうだ。だからね。別にあんたが初枯を連れてったっていいんだ。初枯が罪を贖って帰って来るなら」
読めない。何のつもりでこんな話をする?
「けどどうも胡乱だ。あんたはただの賞金稼ぎじゃなさそうだし、初枯の首にかかった金が大きすぎる。ビンゴブックには詳しい情報は載らない。首にかけた金の意味は依頼主に聞くしかないってことだ。そこに辿り着けるのは玄人筋の連中だけ。依頼主は実際仕事を請け負う相手にしか詳細を話さないんだろう?ーいや、話さないか。話す必要がなければ話さないな…」
独語して大枯は溜め息を吐いた。
「駄目元で聞くがね。あんた、初枯の本当の罪状と依頼主の目的を知ってるのか?」
うかうかと猟への同道を許したかと思えば、大枯には大枯の思惑があったらしい。
鬼鮫は胡座をかいた膝に肘をつき、顎を撫でながら大枯を見やった。
どうもこの男は本当に初枯の居所を知らないらしい。
と、すれば大枯のいう通り、鬼鮫がこの場にいる意味はもうない。
今後初枯が里と繋ぎをとる可能性はある。三山家から目放しならないが、貼り付く必要はなくなった。
「私は人を間に入れて依頼を受けたのでね。あなたの問いに応えようがない」
嘘はない。ただ全て本当のことを言っていないだけで。
その気になれば造作なく大枯の疑問を解いてやれる。
だが鬼鮫にその気はなかった。
「お互い残念なことでしたね」
立ち上がって鬼鮫は口角を上げた。
「今から山を下りる気か?」
大枯が腰を浮かせた。
「朝まで待って下りた方がいいと思うが」
「夜の山道は危ない?」
薄く笑って聞いた鬼鮫に大枯は頷いた。
「いくらあんたが腕自慢でも、要らない苦労はしなくていいんじゃないか?」
鬼鮫の背中の鮫肌に目をやって大枯は苦く笑った。
「本当に初枯は何をしたんだ?」