第3章 小枯
鬼鮫が炉端に腰を下ろした丁度その時に大枯が戻って来た。長い腕いっぱいに抱えた朽ち木を土間に下ろした大枯を、炉で沸かした鍋に干し肉を放り込んだ小枯が忌々しげに見る。
お前が薪拾いになんざ行くから下らない目にあったというところか。
鬼鮫は気付かぬ顔をして炉端に座る大枯に声をかけた。
「ここから五ン合とやらまであとどれくらいかかりますか?」
「夜明けに出て陽が昇りきるまでには着くと思いますよ。あんたは俺らと同じくらい山道の足が速い。大したもんだ」
鬼鮫は内心嘲笑した。合わせてやっているのに気付かないのか。
「小枯よ」
むっつりと鍋に味噌を溶いている小枯に大枯がのんびり呼びかけた。
「何だよ」
面白くもなさそうに応える小枯の目の下、隈が囲炉裏の火に照らされて深い陰を作る。
寸の間、大枯は僅かに目を細めて気掛かりそうにしたが、すぐにまたのんびりした調子に戻った。
「お前、初枯の居場所を知っているか?」
鬼鮫がすっと鋭く大枯に目線をくれた。
「何を言ってる。お前の知らないものを私が知るわけがないだろう」
小枯のこの言い方、どうやら初枯とやらは小枯より大枯と親しいらしい。
「そうか。となれば、あんたが俺たちについて来る意味はもうないってことになりますね」
大枯がにっこりして鬼鮫を見た。
「この人は初枯を探しに来たんだよ」
敢えて鬼鮫の前で小枯に事情を話すことで鬼鮫を牽制しようとしている。
鬼鮫は大枯から目を逸らし、小枯を見た。
小枯は大枯も鬼鮫も見ず、米の袋を手に立ち上がって土間に下りた。小さな竈から釜を取り上げ小脇に抱える。
「沢で米を研いで来る」
言い残してピシャリと野小屋を出て行った。
「ひとりで行かせていいんですか」
鬼鮫に言われて大枯は肩を竦める。
「あれは山の女ですよ」
「弱ってるようですが」
「今の時期は多かれ少なかれあんなもんです。アイツは特に夏場忙しいから、どうしても削れちまう」
「……」
何か違和感を覚えた。
削れる…。削れるとは何だ?そんな言い方をする程忙しい何をしている?
「そんな目で見ないで下さい。小枯は夏場、療養所と家業の2足草鞋を履いてるんですよ」
大枯はおっとりと鬼鮫のきつい視線を受け流した。
「それが狩猟より辛いと?」
「何故狩猟の方が辛いと思うんです?」