第10章 参の社
「本巫女が不在の参の社は在ってはならないもの。だからどうでもあなたにはここに残って貰うしかないのよ」
南天が白い手をぎゅっと握り締めて小枯を見た。どうでも譲る気はないという強い目。
小枯は頭を掻いて溜め息を吐いた。
湯帷子一枚の身体が冷えて来た。南天も寒かろう。見れば怒りか寒さか測りかねるが、小刻みに震えている。
兎に角南天を落ち着けてお互い何か着ないと揃って身体を損ねてしまう。
「他に本巫女の資格がある者はいないのか」
「来春舞を奉じれば初音がなれなくもない」
「…来春か」
小枯は腕組みして考え込んだ。
「晦の舞を舞わせてはどうか」
「晦の?でもあれは男舞よ?それに晦までは時間がない…」
「時間がないのはこっちの事情も一緒だ。年末までに初枯の件に片を着けなければ経巡は年も越せないかも知れない。そうなれば男舞も何もあったものか。宮司に会わせてくれ。話がある」
「宮司は今霜刃たちと話してるから…」
「その話、恐らくは私も無関係ではないだろうよ。それにあのふたりに話したことなら遅かれ早かれ私の耳に入る。手間は省いた方がいい。時間がない」
小枯は湯帷子の前を合わせて身震いした。
「…兎に角、着るものを何とかしてくれ。巫女装束以外でだ。あなたも私に合わせていないで着替えなさい。お互いこの恰好じゃ流石に本殿に入れないからな」
南天が硬い顔で自分の籠から装束を取り上げた。
「あなたを本巫女にというのは宮司の思し召しよ。それなのに巫女装束もつけずに宮司に会おうというの?」
「私が何を着ていようが話の中身に変わりはない。ー宮司は神成連から造反しようとしているのか?」
「…何でそんなこと…」
「あなたたちは神成連と参の社に縛られるのを嫌って里を出るのだろう?なのに宮司を味方だと言う。あなたを里から出すことを社の総意だと言う。であれば明確な敵として残るのは神成連。宮司自身が籍を置く里の柱だ。これが造反でなくて何になる?」
南天は黙って装束を着込んだ。
脱衣場の引き戸に手をかけて、小枯を振り返る。
「私からは何とも言えないわ。…私は巫女でしかないから、里の内で何が起こっているかまで詳しくは知らない。でも、宮司は味方よ。これは本当」
「あなたと初枯の味方だろう」
濡れた湯帷子の胸元を煩わしげに引き寛げ、小枯は苦笑いした。
