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弥栄

第10章 参の社



「名前は人を騙し討ちして告げるものではない。そんな告げ方で名前を預けた気になるな。私はあなたたちの名前を受け取らない」

小枯はげっそりして南天の手を解いた。
南天の抱えた巫女装束を取り上げ、改めて籠に戻した。

「…あなたたちが本気で里を捨てる気だというのはよくわかった。だから要らなく晒した名前は引き取って欲しい。私にとって名前は未だ大切なものなんだ。それこそ自分たちの都合で私の気持ちを踏み躙るのは止めてくれ。そんなことをして私を縛り付けようとしても無意味だ」

感情に訴えて思い通りになると思われるのは心外だ。人の気持ちはそこまで簡単なものではない。

「初枯にはどう会うつもりだ?宮司が一枚嚙んでいるのか。あなたには他の男との縁談が持ち上がっていた筈。相手は初枯ではないが神成連の身内だ。それを蹴って里を下りるとなれば神成連の怒りはどれほどか」

「誰と添い遂げるかは私自身が決めること。私は成也の他と生きる気はない。ずっとそう思ってきたし、それを隠しもしないできたのにこの有様よ。社に仕え、神成連を忖度し、里の皆の為に祈りを捧げてきた。その私が、何故この上利用されなければならないの?もう好きにしたいの。自由に生きたいと思ってはいけない?」

「落ち着いてくれ。事は里の存続に関わっている。初枯をしでかしたことはあなたもよく知っているだろう?このままでは経巡は和良に呑まれて消えてなくなりかねない」

「あなたが私の代わりにここに残るのなら初枯は和良の宝珠を渡すわ。私と引き換えに。そうすれば里は助かるでしょう?」

確かに初枯は南天と引き換えになら宝珠を渡すだろう。

それを狙って大枯たちも南天を担ぎ出そうとしていたのだから。
ただ、里がそれだけで助かるかどうかは甚だ疑問だ。宝珠を返しただけで、初枯は南天を連れて遁走、和良が黙っているとも思えない。

だからやはり、大枯らの企てを押し通すのが正解だ。
危ない橋でもどの道里は今ぎりぎりの状態なのだ。渡らないよりは渡った方がましだ。
それが途中で落ちても折れても、何もしないでいるよりはいい。

しかし南天がここまで強く里を出たがっているとは思いもよらなかった。
大枯らは初枯と会わせた後、南天をまた人知れず社に戻せばいいくらいにしか考えていなかったのだろうが、これは無理だ。

そんな殊勝な計画に今の南天は乗らない。
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