第10章 参の社
「だが今それはどうでもいいんだ。兎に角着替えを持って来てくれ。風邪を引いてしまう」
くしゅんとくしゃみをして小枯は身を縮めた。
「あなたは上に何か羽織った方がいいな。私はこういうことに慣れているが、あなたは違う。大事にしなさい。何をするにしても身体を損ねてはどうしようもない」
南天は脱衣場の引き戸を握り締め、唇を噛み締めた。
「…昔から思っていたけれど、あなた時々凄く馬鹿みたいだわ」
「うん?ああ。私は…まあ、かなり馬鹿だと思うよ。我ながら」
小枯は鼻を啜って目を伏せた。
あなたが背負ってきたものは、私が背負っていたかも知れないものだ。
あなたがそれを私に渡したくなる気持ちはわかる。
引き戸の隙間から滑り出た南天を見送って、小枯は脱衣場の床に座り込んだ。
あなたが初枯と里を出たいと思う気持ちもよくわかる。
わかるから私も譲れない。
温かな手の優しい感触。
目尻に、頬に、手に腕に、肩や背中、触れられた箇所全て。抱き締められた温み、抱えあげられた驚き、何もかも譲れない。
失くせない。
私にも大事なものがある。
小枯は顔を上げて立ち上がった。
霜刃に言ったように、私は里には残らない。
ほんの少し前に襲われた驚くような罪悪感と脱力感を思い起こし、小枯は唇を噛んだ。
私は弱い。
あんなに逃れたいと思っていた時雨の上に成った自分に、里にしがみつこうとする程に。
ここまで囚われているとは思いもしなかったことが問題だ。私は自分の弱さを自覚出来ていない。
視界をギリギリまで狭めて目を眇め、小枯は息を詰めた。
ー大丈夫だ。
見届けてくれる人がいる。1人じゃない。踏ん張れる。
揺れる私を見るあの目があれば、私はきっとやり抜けられる。