第10章 参の社
ここにどういう訳か茅場宮司も絡んでいる。
だから小枯を南天の代わりに据えるのが参の社の、延いては里の総意になる。
小枯は黙って南天を見た。
小柄で柔らかそうな体を湯帷子に包んだ南天は如何にも可憐で、だが長く本巫女を勤めてきた尊い女性だ。
だからこそ小枯は背を伸ばして正面から向き合うことを決めた。
「初枯とは何処で落ち合うつもりでいる?宮司はそれを知っているのか」
小枯の低い声に南天がふっと笑った。
「今は宮司も私たちの味方です」
「あなたと初枯は何を以てして敵としている?神成連か?それとも里そのものか」
「里」
南天が赤い唇を緩めて遠くを見るような目をした。
「こんなところに生まれなければ、私も初枯もこんな目に遇わなかったし、あなたをこんな風に苦しめることもなかった」
「その里であなたと初枯は出会ったのだ。他の道で交わりえたとは思わないことだな。ー何処で誰に出会し、何を育むかは一期一会の奇跡だ。…それを大事にしろ。ないものを考えて生き方を濁すな」
「あなたと私たちは違う。誰でも同じことを考えて生きるとは思わないことね。小枯」
「無論だ。あなたたちと私は違う。だから当然私にも私の考えがある」
籠に収まった巫女装束に目を走らせ、小枯は口角を上げた。
「私は狩人だ。巫女ではない」
「大切なことを話すわね、小枯」
南天が憐れむような目で小枯を見て、籠から巫女装束を取り出した。
「私と初枯はもう、お互いの名前を知りあっているの」
…何?
だからなんだ?将来を契り合ううつもりでいる二人なら珍しいことではない。むしろ真っ当だ。
小枯は南天の真意を掴みかねて眉を顰めた。
南天はそれに少し嬉しそうな顔をして、何なら声を立てて笑った。
鐘が澄んで鳴り響いた後の、余韻に震える空気のような幽かな笑い声。してやったり、と言えばいいのか、妙に無邪気な笑いだ。
「成也。そして…夏越」
小枯はハッとして身を引いた。追いすがる様に南天がその腕を掴む。
「初枯と私の名前。あなたに預けるわ」
「…南天。それは駄目だ」
「いいの。私たちは成也と夏越。初枯と南天じゃないの。これからはそう生きて行くんだから、里を出るんだから、それでいいの。ただ、あなたにだけは置いて行く。私と、初枯の名前を預けて行くわ」