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弥栄

第10章 参の社



確かに好いた者同士そういう時間を楽しむのは胸が弾むことだろう。

初枯と南天は里でも有名な者同士の比翼の仲、どこへいっても衆目を集める。立場上、ふたりは常に周りの目を気にしながら会わなければならなかった筈だ。
さぞ窮屈だったろう。
例え皆の眼差しが無邪気な祝福に溢れていようと、ふたりだけの親密な時間にそれは邪魔なものでしかない。

それはわかる。痛いほど。
善意が必ずしも善意のまま人に届かないのは小枯もよく知っている。

しかし、好きに会えないことや手を繋いで歩くのは兎も角、山の外へ遊山に行ったり互いの着物を見立て合うような裕福な男女は里には滅多といない。

好きに会えないというのも、年に三度、季節の変わり目に社へ籠もって時節の巡りを山神へ感謝する経巡りの儀の期間だけだ。

年に三度、各七日。壱の社、弐の社、参の社へ籠もる。本巫女の勤めの筆頭、大切な儀式だ。

それ以外は茅場の許可さえあればふたりは好きに会えていた。
茅場が止める筈もない。そもそも巫女になり、社に入った南天を初枯に引き合わせたのは茅場だ。

社の看板巫女と里の伐採権を将来継ぐことになる甥孫が身を固めれば、参の社も神成連も安泰、これはそれこそ"誰にとっても"願ったり叶ったりの良縁。

初枯がビンゴブックに載るような真似さえしなければ。

参の社は茅場の妻女が亡くなって数十年、年嵩の巫女が他の巫女を管轄してきていた。
今ならば鬼鮫と霜刃を宮司の元へ連れて行った小萩がそれだ。本巫女とは別の実際的な権限を以て巫女を統率するお目付け役のような恰好で、巫女らには恐れられている。

が、縁付いて本巫女を下りた南天は、権禰宜として巫女を統べる参の社を支える立場になることが決まっている。名実ともに巫女の長となるのだ。
茅場の才女がそうであったように。

恐らくは初枯と南天が最も嫌ったのがこれだ。
初枯が神成連に縛られるのと同じく、南天は参の社に縛られる。
例え結ばれても、その縛りはずっとふたりを逃さない。

だから逃げる。
初枯は"里に戻れない"過ちを"敢えて"犯し、その後南天を連れ去る何らかの算段をしている筈だ。
つまり、南天は初枯の共犯であり、大枯や雨露らが南天を利用しようと思いつくずっと前に、小枯を利用することを既に決めていたのだ。

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