第10章 参の社
小枯は茫然と無感覚に南天を見返した。
…そうか。
私は私のしたことに責任を取らなければならない。
私がしてきたことは、私が続けなければならない。
私は里を出られない。
ここにいなければならない。
それが一番、正しい。
誰にとっても、それが一番正しいのかも知れない。
私自身、そう思って生きてきたのだから。
南天が己が小さな肩に小枯の手をのせて立ち上がらせようとする。
小枯は黙ってそれを止め、自ら立ち上がった。
「小枯。寄り掛かっていいのよ。無理をしないで」
自分より小さな南天に難儀をかけるわけにはいかない。小枯は足を踏みしめて脱衣場に行き、湯帷子を脱いだ。籠に畳んで入れた元の着物がない。代わりに白と緋の巫女装束があった。
長らく身に着けていない装束を手に取って、小枯は味気なく笑った。
流石にこれはないだろう。
衣装を床に叩きつけたくなった。
里に残るにしても巫女にはならない。私は神の為に里に居るのではない。
「他に着るものはないのよ。ここは神殿だし。あなたの着て来たものは今洗い清めているから、申し訳ないけれど今はそれを着て頂戴?」
腕に手を添えて言う南天に小枯は首を振る。
「仕丁の仕事着を貸してくれ」
白と緋の着物を突き返すと南天が表情を硬くした。申し訳なさが頭を擡げたが、小枯は譲らなかった。
私は巫女ではない。狩人だ。
「これを着る資格は私にはない」
「あなた以上にこれを着る資格があるのは私だけ。あなたはその他の誰よりこれを身に着ける資格があるし、本来そうすべきだったのよ」
南天が強い口調で言った。涼やかな声のトーンがひとつ上がり、眉間に微かな皴が寄る。
「私は社を出るわ。初枯に会いに行くの。今までずっと本巫女として色々堪えてきた。初枯と好きに会えないし、一緒に山の外へ遊山に行くことも叶わない。里で手を繋いで歩いたり、よその里の祭りを見て楽しんだり、お互いの着物を見立ててみたり、そういうことをしてみたいの。誰にも構われずに。ふたりだけで!初枯と、一緒に!」
そうきたか。
小枯は装束を籠に戻して湯帷子を着直し、まじまじと南天を見た。
可愛いことを言う。これは初枯も堪るまい。
巫女装束を拒む頑なな小枯に、南天は唇をきゅっと引き結んだ。
その様さえも可愛らしい。
頬が、目尻が紅潮している。怒っているのだろうが美しい。
