第10章 参の社
茅場は胡坐した膝に肘をついて不敵に笑った。
精悍な顔に浮かんだ胡乱な笑みがいやに映えて、鬼鮫ははっきり顔を顰めた。
神職に身を捧げる人間の顔ではない。
「どちらにしても結果がわからんうちは是も非もない。勝った者勝ち。それが是非だ。そうだろう?」
「ー小枯は勝ち負けの道具ではない」
霜刃が静かに羽織の裾を捌いて立ち上がった。
「還魂は不成。退かせて貰う」
「印も肉も受け取った後だが?」
「物の引き渡しと還魂は異同だ。話にならぬ」
「小枯も要らんか」
「茅場宮司」
霜刃はすぅっと剃刀のような目付きで茅場を睥睨した。
「小枯はものではない」
霜刃と茅場のやり取りをよそに鬼鮫は辺りに気をやった。
取り囲まれる気配はない。
むしろ人払いしているような静けさ。
茅場は笑っている。面白そうに。
「座りなさい」
鬼鮫は茅場を見ながら、霜刃に言った。
「小枯をものにも道具にもしたくないなら、座りなさい」
わざわざ呼び立て、鬼鮫も霜刃も挑発して反応を見ている。
測られている。
「話したいことがあるならいちいち相手の反応を楽しんでないでさっさと話したらどうです?私もーこの人も、今年寄りの遊びに付き合ってるような気分じゃないんですよ」
ここで茅場が声を立てて笑った。
よく通る朗らかな笑い声が蠟燭の火の揺れる翼殿に響き渡る。
「久方ぶりに血が騒いだ。すまないな。少しばかり礼を欠いてしまったようだ。私とても小枯を道具やもの扱いする気はない。その気はないからお前たちを待っていた。霜刃。座れ」
霜刃は座らない。座らないが先を促すように茅場を見た。
茅場は鬼鮫と霜刃を見比べて、口元に薄っすら食えない笑みを浮かべて顎を撫でた。
「順を追って話そう。まずは神成連を排する話からだ」
ーほう。
面白い。
鬼鮫は表情を殺して茅場を見た。
聞かせて貰おうじゃないか。