第10章 参の社
「下らないことを言う。やるべきことをして得たものは私のもの。誰に請け負われるものでもない」
「出す者があるから得る物がある。報酬は降って湧く恵みではない」
「あなたがばら撒く金も降って湧いたものではないでしょう?」
削れた身を回復させることも叶わず、隈を浮かべて時雨を放つ小枯の姿が脳裏に浮かんだ。
小枯は宮司が匂わせる里の偏った構図を知っている。
その上で偏った天秤の、軽い側に分銅をのせて少しでも傾きを水平にする為に身を削り続けてきた。
五ン合で村人と笑いながら話していた小枯。
今の里へ貧富を持ち込むなと大枯の弱音を切った小枯。
里の為に伝書になろうと穏やかに言った小枯。
鬼鮫の肩の上で、井の中の蛙は、経巡での自分は、不幸せではないと軽やかに笑った小枯。
冷たく薄い手、触れれば骨の触れる背中、靭やかで筋肉の張った体の、しかしあまりに頼りない細さ。
あの小枯の涙。
時雨ではない自分を見て欲しかったのに時雨であらねばならなかった小枯の、三十余年分の涙の意味。
髪の、背中の、手の、頬の、小枯のあの感触。たった今、鬼鮫の手の中にそれらは何一つない。空の手の、心許なさ。その憤り。
鬼鮫は空白を握りつぶすように固く手を握り締めた。
「…降って湧くどころの話ではない筈だ。何を犠牲にしているか、あなたわかってますか」
低く抑えた声で言った鬼鮫に、宮司はふむと顎を撫でた。
「小枯の話か」
「心当たりがある訳だ」
鬼鮫の嘲笑に宮司は口角を上げた。
「改めて、私は経巡は三ツ山の参の社宮司、茅場という。暁に捕捉を依頼した初枯の大伯父にあたり、経巡の伐採を一手に引き受ける神成の本家筋に籍を置く」
「つまり里の特権階級のど真ん中にいるという話ですね?今更要りませんよ、そんな情報は」
素っ気なく言った鬼鮫に茅場は足を崩して胡坐をかいた。
「大枯に聞いたか。それとも雨露か?まあここに来るからにはせいぜい私に気をつけろと言われた筈だが」
「目端の利く年寄りとは聞いていますよ」
「その目端の利く年寄りに不意を打たれては面白くないだろう。はは。そう睨みつけるな。色々話辛くなるだろう」
「茅場宮司」
ここで霜刃が口を開いた。
「是非を問う」
「私のか?それともお前らの企ての?」