第10章 参の社
「それは重畳。お前もいよいよ凍みとなろうが、御奉仕を疎かにせず変わらず勤めなさい」
「……」
茅場に言われ、霜刃は頷きも答えもしなかった。
何故この宮司がそれを知っている?
昨日今日立ち上がったばかりの内々の話の筈だ。初枯絡みの企み同様に。
顔色ひとつ変えない霜刃に鬼鮫は溜め息を噛み殺した。読み辛すぎて全く何も伝わって来ない。ひとりでこの場にいた方がまだマシなような気すらする。
「お前の務めは狩りばかりではないことを弁えよくよく慎んで励むように」
木か石かのように身動ぎもしない霜刃をよそに宮司は飽くまで朗らかだ。こういう霜刃に慣れているからか、今が今だから敢えての態度か。
小枯が経巡を去り、大枯が霜に大物狩りを伝えて凍みを下りる手筈はまだ誰にも知られていない、凍み鎌と霜鎌、そして鬼鮫だけが知っていることの筈。
口を挟みたいが挟みようがない。
鬼鮫の焦りが高まる。
ここで起きることが小枯にどう影響するかわからない以上、迂闊に動けない。
鬼鮫は霜刃を鮫肌で削り殺してやりたくなってきた。
場を見て口を慎めと言った霜刃こそ場を見て口を解くべきだ。何をしに来たのだ、この役立たずは。
小枯が気になる。
どうしているだろう。何かしら困ってはいないか。南天を説得出来ているのか。
南天だけが初枯の居場所を知っている。
いや、知らないとしても、渡りをつける縁を持っている。
そこから始めて企みが動く。つまり、小枯を経巡から連れ出す算段に目途が立つということ。
「そちらの客人とは初めて顔を合わせるが」
不意に話しかけられ、鬼鮫は目を眇めた。
宮司が穏やかな笑みを口元に刻んでこちらを見ている。何か面白がっているような、巧まない表情が引っ掛かる。
やんわり挨拶を求めているのか。
と、いって先に名乗る気にもなれない。
「守備はどうだ?初枯は見つかったのか?」
不意に問われて鬼鮫は冷笑した。
馬鹿馬鹿しい。
全て見通されている。ならばやり方を変えるまでだ。
「思わせぶりな物言いですねえ」
やんわり、胡乱に笑いながら言った鬼鮫に、宮司は眉を上げて笑い返した。
「何もかもかどうかはわからんね。だがまあ、ある程度はわかっている。少なくともお前よりはわかっているかな」
「成る程」
わかっているかどうかなどもうどうでもいい。