第10章 参の社
社の中は温かく、仄明るい。
古びた木の香りと蝋燭の燃える鄙びた香りが籠っている。
「小枯?」
地の薄い鐘を柔らかく鳴らしたような、高く細く通る声。
「待っていました」
幾本も灯された蝋燭の火の揺蕩う灯りのその只中、御祭神の前に端座する小さな人影に小枯は溜め息を吐いた。
「…南天」
呼ばれて笑うのは、真白い肌に赤い唇、色素の薄い茶がかった目の小柄な巫女。
「貴女がここに来るのは何時振りでしょう。…相変わらず疲れているように見えます。身体は大事ありませんか?」
社の中にすうっと通る南天の声が優しい。
小枯はじっと立ったまま、南天を眺めた。
変わらず、愛くるしく可憐だ。
小枯と幾つも変わらぬ歳なのに童女の趣きすら感じさせる。大きな目は澄んで潤み、目元が僅かに赤い。ふっくらした唇もまた鮮やかに赤く、紅梅のように美しい。
「変わりない。あなたはどうだ?恙無く過ごされていたか」
背後のふたりの巫女を意識しながら小枯は当たり障りなく南天に応えた。
「小枯。ふたりのことは気にしないで。味方だから」
「味方?」
ー何の味方だ?
小枯の後ろでふたりのくすくす笑いが湧いた。
「お久しぶりでした、小枯様。このところお見限りで淋しく思ってたんです。ねえ、初音」
「本当に、怪我でもされたか削れで伏せられているかと稲穂共々心配しておりました。ご無事で良かった。またお顔が見れて嬉しいです」
巫女らが砕けて笑いながら言うのに小枯はふたりを振り向いてちょっと笑った。
「夏忙しかったからここまで足を運ぶ暇がなかった。心配をかけて悪かったね。気にかけてくれてありがとう」
初音が着物の袖で口元を覆って赤くなり、稲穂が両手を組んでぱっと笑みを浮かべる。
「霜刃様共々お運び下さるなんて、本当に私たち、ついてるわね!初音!」
「静かにしなさいな、稲穂。外まで声が聞こえてしまうわ。宮司に叱られてよ」
幼顔ではきはきした稲穂を、頬のふっくらした優しげな初音が嗜める。
「宮司の前に小萩様が飛んで来るわよ。今日の小萩様のおっかないことったら、尖った氷柱の落っこちそうな勢いよ」
「黙りなさいってば。そんなこと言わないの」
「おっかないって言えば、小枯様。小萩様が連れて行ったあのお連れ様は誰?随分おっきくて大枯様みたようでした」
稲穂に問われて小枯は苦笑いした。
