第10章 参の社
いいも悪いもない。要は結果を掴むこと。そうでなくてどうする。
神域に踏み入り、携えた猪肉の死臭が心持ちきつく感じる。気のせいかも知れない。が、そうではない何かしらがあるのかも知れない。
鬼鮫は口角を上げて境内をぐるりと睥睨した。
馴染みの臭いがより立ち昇ったから何だ?
不浄は身近なもの。
それを突きつけられるのならばむしろ望むところだ。
中雀門の向こうに拝殿がある。黒ずんだ赤茶色の檜皮葺の屋根、飴色の木肌が意外に手堅い。
が、その背後に朱の流れ造りに黒い瓦屋根の誇らかな本堂が覗える。
先を歩く巫女に続く霜刃の足取りは淡々としている。
大股だが高く足を上げない独特な歩き方だ。
恐らく神事に携わる者のする摺り足に山中での狩りの足捌きが混在した霜刃独自の歩き方なのだろう。が、双方の理に適った歩き方だ。
重心を低く保ち、上半身を揺らさない。雅びやかだがぶれない歩き方。
ネジの外れた男らしく、迷いのない歩みだ。
信用出来なくもない。虫は好かないが。
どうかしているほど小枯中心で生きてきたらしいこの男が小枯を行かせたのだから危険はない。少なくとも小枯が自分で回避出来ない程のことは起こらない筈だ。
大枯然り、里の連中を通して小枯を見なければならない自分に苛立つ。しかし長く付き合って小枯をより知っている者を標にしなければわからないことが多いのは事実だ。
ふと振り向いたそのとき、小枯の括り髪が赤い紐をひらめかせて、御扉の隙間をすり抜けて社の中に消えた。
御扉が閉じ、閉じた途端辺りがしんとなった気がした。
歩みに合わせて朱い社も随神門の陰に入り、見えなくなる。
雪が本降りになってきた。しんしんと降って見る間に足元が白く覆われていく。
ふと前を歩く霜刃が歩みを遅めて鬼鮫の近くに寄った。
「場を見て要らぬ口は慎め」
それだけ。
鬼鮫を見もせずに言うとまた足を速めて巫女の後ろにつく。青い羽織の裾が雪風に巻き上げられながら前を行く。
鬼鮫は吹き付ける雪に目を眇めながら口辺を上げた。
辺りは最早吹雪、白く烟る景色の中、鬼鮫は中雀門をくぐった。