第3章 小枯
大枯が出て行くと、小枯は溜め息を吐きそうにして結局吐かず、黙って鬼鮫の向かいに座り直した。
当たり前の様に胡座をかき、黙々と夕飯の支度を始める。いつもこうしているのだろう。それが自然に出るのは萎縮はしていないということだ。
鬼鮫はそれを興味深そうに眺めながら敢えて口を開かなかった。ただ黙って小枯の手元を見る。
干した大根や肉、塩に浸かった紫蘇の実やら胡麻、胡桃を並べて、小枯が溜め息を吐く。多分無意識だ。
先刻溜めた溜め息が、意図せず漏れた格好だろう。慣れた作業に勤しむことで、肩の力が抜けたと見える。
「ちょっと表に行って来ます」
フと立ち上がって、小枯がごく自然に野小屋の引き戸に向かった。
「何処へ行くんです?」
声をかけると、
「外に葱をいこってるんですよ」
「いこう?」
「…土に立てて保存してるんですよ。それをとって来るだけです」
面倒そうに答えた小枯は立ち上がった鬼鮫に目を眇めた。
「どうしました?用を足したいなら…」
「手伝いますよ」
「葱を持ってくるだけです。手伝う?何を?」
「葱をいこってるところを見てみたいんですよ」
「面白いことは何にもありゃしません。大体見てんのは手伝いじゃないですよ」
「手伝いは口実ですよ。言葉の綾と言ってもいい」
「…たかだか葱に言葉の綾も何も…。いいから座ってて下さいよ。お客は黙って座ってるのが仕事でしょう」
偏った来客観を披露して小枯はさっさと出て行った。
無論鬼鮫も後を追う。
小枯は振り向かない。反応するのも面倒なのだろう。苛々した足取りで野小屋の裏に回った小枯の歩調に合わせて、腰の上で括り髪が跳ねている。リズミカルで不思議な動きだ。鷲掴みして力任せに引っ張れば、この女はどんな反応をするのだろう。が、そんなことをすれば今以上に距離を取られて初枯の話も聞き取れなくなる。だから、やりはしない。
裏手の外壁にかかった菰を外し、小枯が無防備に屈み込んだ。
鬼鮫の、目の前に、無防備に。
鬼鮫は腕組みして葱をいこっている土の上に積んだ枯葉を掻き分ける小枯を見下ろした。
小枯が手を止めて手甲の紐を口に咥えた。
やり辛くなったのか、手甲に泥がつくのを厭ったのか。
口で紐を引いて手甲を弛めると、外した手甲を口に咥える。そうして素の肌が露わになった手で土を掻く。
鬼鮫は黙って見下ろし続けた。
