第3章 小枯
野小屋に着いた頃には晩秋の陽はすっかり落ち、山の空に馬鹿に大きな星が光り出していた。
「それでもまだ麓よりは日が長い。木が生い茂るせいで分かり辛いでしょうが、山自体は高くあるせいでより長く陽に晒される。だから草木が深く育つ」
初枯の件での警戒八分、小枯の件での許容が二分といったところか。
大枯の話を聞きながら、鬼鮫は野小屋を見回した。
狭い。が、温かくはある。そして何かしらツンとする鋭い芳香が漂っている。
鼻を鳴らした覚えはないが、大枯が敏くそれに気付いて小屋の隅、菰のかかった小さな山を目顔で指した。
「杉や松の葉ですよ。一年中簡単に採れて使い道も色々あるんで小枯がいつも摘んでおいてくれてるんですよ。なあ、小枯」
「ん?ああ」
小枯を見ると、聞いているんだかいないんだか、小屋に常備されたものを引っ張り出すのに一生懸命で反応が薄い。
「飯の支度をしてんですよ」
大枯が苦笑いで説明する。
「こうなると話を聞かない。まあいつものことなんで見逃してやって下さい」
「食って寝ろって言ったのはお前だろうが。その大事なことの準備をしてんだよ。悪いか」
反応が早い。ちゃんと話は聞いているのだ。
半ば聞いていないような様子をしているのは面倒だからか?
見られていても視線を合わせないのも、気付いていてやっているのか。
鬼鮫は敢えて小枯を凝視しながら思い巡らせた。
だとすれば失礼な話ですねえ…
ここで小枯が頭や肩を払いながら立ち上がった。
煩わしそうな顔を大枯に向け、
「薪が足らない。とって来る」
と、足を踏み出した。
「それは俺が行くよ。お前は飯の支度をしていろ」
小枯の腕を取って大枯が立ち上がる。小枯の眉が跳ね上がった。
「ああ?!ば…、お前、そしたらここに……」
言いかけて小枯は尻すぼみに口を噤む。が、鬼鮫にはその続きが手に取るようにわかった。
ここに得体の知れない"変な奴"とふたりになってしまう。
そうですよね、小枯さん?
「今はさっさと食べて寝るのが大事だ。朝も早いし、お前は休むべきだし」
大枯が言い聞かせる。
「お前だって凍みの鎌だ。自分のことは自分で何とか出来るだろう?」
つまり、何かあっても自分で対応出来るだろうということだ。小枯が渋い顔をする。何と言われようが嫌なものは嫌なんだとその顔に書いてある。