第10章 参の社
削れから回復した小枯の足は速かった。山歩きが嫌いな筈の霜刃の足も速い。
ふたりとも半ば駆けるように獣道を行く。
ひと言も話さず。
これが狩人の道行きか。
重い猪肉を担いでふたりを追いながら鬼鮫は内心、驚嘆した。ついていくのが苦とは言わない。だが、楽とも言えない。
五ン合までの道行きは、大枯の言ったように鬼鮫を気遣っていたのだとわかる。
今は鬼鮫の体力の程がわかった為、斟酌なく進んでいるのだろう。
道とも言えない道をひたすら行くふたりのー小枯の後ろ姿を見て、鬼鮫は口を引き結んだ。
赤い括り紐が鮮やかに目を引く。
あの赤い紐は好きになれない。
小枯の万が一を連想させるからだ。
だから外から霜刃と戻って来た小枯が、赤い括り紐で髪をまとめているのを見て鬼鮫は一瞬絶句した。
霜刃と赤い括り紐。
嫌なものがまとめて入り込んできたと思った。
取れと言う前に鬼鮫の目線に気付いた小枯が首を振った。
いいんだ。このままで。これは私のものだから。
そう言った小枯の顔は後ろめたさの欠片もなかったが、何かあったのだなと思わせる妙な生真面目さがあった。
小枯をひとりで外に出すのではなかったとちらりと思う。
霜刃は恐らく小枯を待っていた。
土間の汲水ではなく、井戸で顔を洗う小枯を知っているから。
気が立ってきた。苛立ちが膨れる。
「鬼鮫」
出し抜けに名前を呼ばれて鬼鮫ははたと我に返った。
見れば小枯と霜刃が、見晴らしのきく中腹に立ちこちらを振り向いている。
「参の社だ」
小枯が指を差し伸ばした先に、杉の聳える木立の中に大きな社殿が見えた。
今いる中腹から谷にかかった橋を渡った対岸の山腹にある。
入母屋造の本殿と思わしき飴色が色の枯れた山の中でいやに神々しげだ。逆に手前に連なる鳥居の丹の赤が禍々しく感じるのは、小枯の括り紐を思わせるからか。
いずれ山中にあるには不釣り合いな威容のある社殿だ。
「随分立派ですね」
「参の社は三ツ山の総本山だからな」
小枯が無表情に言う。
「色々強い」
「成る程。色々、ですか」
「まあお前が気負うことじゃない。ここは私と霜刃の出張りどころだ。目立たぬようにだけ、努めてくれ」
小枯の言葉に霜刃がちらと鬼鮫を見、ふっと鼻を鳴らした。
物言いたげですらないのが癇に障る。何をしないでも目立つとでも思っているのだろう。
