第10章 参の社
小枯がふと鬼鮫の傍らに寄って、その腕に手をのせた。
「…本当に気負ってくれるなよ?」
芯から気掛かりそうな、らしくない迷いがちな声に鬼鮫は小枯の顔を見た。
小枯が気遣うような目色で鬼鮫の目線を受け止め、眉を下げて笑う。頼りなげな笑いだ。
鬼鮫はそれに一時見惚れた。初めて見せた心許なく辿々し気な笑みが胸に刺し込む。刺し込んで、軋む。
「面倒に巻き込んでしまった。すまない」
白い息を吐きながら参の社を眺め、唇を噛んだ小枯を引き寄せようとして止める。
物凄い視線を感じる。
「……」
霜刃だ。
ゼンマイが切れたように小枯を凝視している。網膜に焼き付けるように小枯だけを見ている。
鬼鮫は小枯に目を戻し、まだ腕にのっていた手を握り締めた。
「…一緒に来てくれて…」
小枯が握られた手を見て息を吐いた。小さな吐息が白く立ち昇り、消える。
「一緒に来てくれて、本当言ったら嬉しいんだ。やり抜けるように、見ててくれ」
拭えない不安を払い落とすように笑った小枯の手を力を入れて握り締め、鬼鮫は社を眺めた。
「いて良かったと思わせられないようならついて来ません」
「強気だな」
「強気?」
小枯の目尻に寄った皺を親指で撫で、鬼鮫は口角を上げた。
「本当のことですよ。自分の目で確かめて下さい」
「気負うなよ」
「気負う必要もない」
ふたりを追い越して歩き出した霜刃の背中と小枯を見比べ、鬼鮫は目を細めた。
「あなたの名前を預かったときに私が私に約束したことをあなたの為に守るだけです」
「約束?」
霜刃を追って歩きかけた小枯が足を止めて鬼鮫を見上げた。
そう。
あなたは知る必要のない約束。
生きていて良かったと思わせてやる。
この私の、傍にいて良かったと思わせてやる。
小枯の背を静かに押して鬼鮫は歩き出した。
これはその手始めだ。