第3章 小枯
腕組みして小枯を見る鬼鮫に、大枯が何を思ったか懐から手甲を出して差し出した。
「良けりゃ使って下さい。あんたなら俺の手甲を使っても不自由はなさそうだ」
鬼鮫は寸の間目を見開き、次いで眇めた。
黒味がかった蘇芳の手甲は確かに並外れて大きく、差し出す大枯の手もまた並外れて大きい。鬼鮫並に。
大枯の口調が僅かに砕けている。小枯を転倒から救ったからか。
成る程、この男の方が庇ってやった小枯より余程感謝しているという訳だ。
当の本人は無頓着に手甲の紐を口に咥えて引っ張って締まり具合を調整している。
仕事仲間の義理堅さや人の良さに慣れているのだろう。といって、大枯のお節介ともとれる好意を止めもしなければ肯定することもない様子から、仲間に入れ込み過ぎていないことも伺える。
依存や干渉はなく、たた信頼しているという訳だ。
「ほう…。気に入りましたよ」
手甲を受け取るでもなく口角を上げた鬼鮫に、大枯は訝しみ、小枯がまたうへぇと小さく漏らした。
変な奴…
踵を返して鬼鮫と大枯を置き去りに歩き出した小枯の呟きを、鬼鮫は聞き逃さなかった。
空が縁から暗んで来た。厄日が暮れる。
それが惜しいと思う程、鬼鮫は気が昂ぶって来るのを感じた。