第9章 霜刃
「ネジの外れた変わり者とこの人をふたりにする?出来かねますね」
鬼鮫は即座に切って捨てた。
「あなたたちの言うようにあの変わり者はこの人に対して入れ込みすぎている。ー私がそれを許すとでも?」
「南天のいる社は神域だ。あんたが足を踏み込める場所じゃない」
「私が足を踏み込めない場所などこの世の何処にもありませんよ」
言い切った鬼鮫に大枯と雨露が引く。
「そうは言っても…」
「猪肉を持たせりゃいいだろ?霜刃と小枯に持たせちゃ足が鈍る。あいつらは力自慢じゃねえから、あの量の猪肉は持ち辛かろ?霜刃は印も持たにゃならんのだし」
言い淀んだ大枯に油紙に包まれた魚の干物を齧りながら飲んでいた霜降が事もなげに言った。
鬼鮫は眉を上げて霜降を見た。
「さっきから言ってるその印というのはなんです?」
「こんな獣をお還ししますって山神様に捧げる獲物の一部のこったよ。今度の猪なら両の牙だ」
小枯と対峙していた大猪の規格外の大きさと立派な牙を思い出して鬼鮫は得心した。あの猪の両の牙に合わせて捌いた猪肉を負うのなら、確かに細身の霜刃と小枯では荷が重い。
「牙も肉も奉納された後は金に化ける。余禄は誰にも行き渡らねぇ。だから還魂はあんまやりたくねんだ、俺たちとしちゃ」
囲炉裏で燗をつけた酒を湯飲みに注ぎ、吹いて飲みながら霜降が顔を顰める。
「でもたまにやらなきゃせっつかれる。壱の社も弐の社もンな真似はしねえのに、参の社は本当に欲深ぇよ」
「だが今回ばかりはそれに助けられた。あの大猪なら急に還魂を言い出しても不自然ない大物だ」
大枯が考え込みながら言った。鬼鮫を見るからには猪肉を運ぶという霜降の提案について考慮しているのだろう。迷っているのが見てとれる。
「参の社が不自然でも不機嫌でも何だって構わねえけどさ。その分五ン合の取り分は減っちまった。雪が降り出す前に結構な数を狩らなきゃなんねえぞ。肉を待ってんのは五ン合だけじゃねえからな」
霜降がらしくもない真顔で大枯を見た。
「寒ぃ時分に子供や年寄りにひもじい思いはさせられねえよ」
「わかってる!順番に考えさせろ!俺だって混乱してるんだ!」
声を荒げた大枯の肩に手を置いて雨露が霜降の隣に腰を下ろした。