第9章 霜刃
奉納の舞台に上がった小枯は、白と赤の鮮やかな白拍子の格好で烏帽子の代わりに真拆の葛を頭に頂いていた。清められた葛の白い花弁と黄色な花芯、緑の葉が濡れ濡れと小枯の黒髪を彩り、それが異様に美しかった。
元より姿勢の綺麗な小枯の白拍子姿は凛々しく、手の届かない不思議なものに見えた。
小さな小枯が唯一人、舞台に立ってふわふわと舞い始める。
辿々しい。だが美しい。
霜刃は息を吸うことも吐くことも忘れ、小枯に見入った。
小枯が手を上げる。葛の花が、葉が揺れる。
緩やかに振り抜いた腕の先、小枯の掌からサワサワと時雨が迸り、初夏の日差しに煌めく。
くるりくるりと回りながら小枯は時繰り返し時雨を縦に、横に迸らせる。
煌めく時雨の輪の中に、小枯が在った。
白と赤の衣装、真拆の葛、黒い髪、時雨の煌めき、小枯。
初夏の日差し、草熱れの匂う風、楽の音、遠くに気の早い蝉の声と山の木々の葉擦れ。
小枯。
その全てが、ただ美しい。
ここで小枯は霜刃の常しえになった
あの日の小枯は、いや、霜刃と同じ場所、同じ時間を生きた小枯は永遠に霜刃のもの。誰に奪えるものではない。
小枯が忘れてしまったことも含めて全て、霜刃のもの。
霜刃はふっと笑って足を止めた。
「忘れていようがあるものはある」
三日月の白白と光る夜空を見上げ、霜刃は白い息を吐いてまた目を細めた。
奪われることはない。