第9章 霜刃
大枯たちが寄り合い所に戻ったときには、小枯はまたぐっすり寝込んでいた。炉端で黒に紅の雲が飛ぶ外套に包まり、静かな寝息をたて微動だにしない。その傍らで鬼鮫が腕組みして物思いしていた。
「まだ起きてたのか」
大枯が声を掛けるその後ろから霜降が顔を出し、辺りを確かめるように目をキョロキョロさせた。
「何だ、ホントにふたりでいただけかい。おらてっきり仲良くしっぽりやってんだろと思ったよ。帰っちゃマズいんじゃねえかってさ」
最後に寝入る小枯に落ち着きのない目を留め、ほっとした様子の霜降を後ろから入ってきた雨露がはたく。
「下らないことを言うな。そんなことになったら南天に繋ぎをとれる奴がいなくなっちまうだろが、バカタレ」
最後に顔を出した霜刃が、雨露の言葉を聞き、鬼鮫を見、すっと笑った。
わざわざ小枯が南天に会い行ける条件を皆の前であげ連ねたのは、鬼鮫を牽制するためだった訳だ。
鬼鮫は霜刃から目を逸らして嘲笑を浮かべた。
誰が弱った小枯を抱くものか。
小枯を抱くと決めたときは、そんな半端な抱き方はしない。疲れも病みもしていない小枯を、疲れ病むほど抱いてやる。
「あんたと小枯に手土産だ」
大枯が素焼きの瓶と赤紫のものが詰まった中口の硝子瓶を鬼鮫の前に置いた。
「猿梨の酒と山葡萄の甘煮。寝酒にしてもいいし、後で飲んでもいい。…どっちも小枯の好物だから、後でこいつと一緒に楽しんでくれりゃこっちとしても嬉しいかな」
疲れた様子で炉端に腰を下ろした大枯が、小枯をちらりと見て寂しそうに笑った。
「こいつには皆が皆、さんざ甘えて来たからな。山を下りて色々決着が着いたら、本当にやりたいようにして貰いたいんだ。里に戻るなり、好きなところで生きるなり」
「まあこいつが俺の娘なら、もう里にゃ戻らせねえけどな。戻ったら元の木阿弥だ。皆悪気がねえから甘えも直しようがねえ。俺もそのクチだ。小枯が居れば時雨が在ると思うのを止められない」
雨露が湯呑に手にした素焼きの瓶から何か注ぐ。匂いからして酒だ。飲み直す気らしい。
「それは俺らがいれば山の獣が手に入るって思われるのと一緒だ。そう思えば小枯のしんどさがちっとばかりわかるのかも知らんな」
「小枯の時雨は強ぇからなぁ」
雨露の瓶を取り上げて自分も湯呑みを満たした霜降が、懐から油紙を引っ張り出して頷いた。
