第1章 人生何が起こるか分からない
『お母さんどうかしたの?』
部屋を移り、何か言いたげだった母だが、先に口を開いたのは瀬名だった。
母は眉に皺を寄せ俯き、とても正月から見せるような顔ではなく、瀬名は少し心配した。
『お母さん、大丈夫?』
「……。ずっとお母さん気になってたんだけど言い出せなくて。」
気になっていたこととはなにか気になったが、母の様子を伺うと催促もできず瀬名は母が話し出すまで待っていた。
数分が経ち、なんとも言えない空気が流れる。
そしてようやく母が口を開いた。
「…瀬名、仕事はどう?大丈夫?」
『え?全然問題ないよ。順調順調!まあちょっと鬱陶しいのもいるけどさ。』
「…そう、ならいいんだけど…。」
仕事の事について聞かれ、素直に答えた瀬名だが、まだ腑に落ちない様子の母。一体とうしたのだろうかと瀬名の眉は下がり首を傾げる。
そしてまたすぐ母が口を開いた。
「お母さんがちゃんと産んであげられなかったから瀬名はずっと虐めに耐えてきたんだよね…。」
そう言った母は啜り泣き始めた。
いきなりの出来事で、なんの事やらと瀬名は慌て始める。
『ちょっとちょっと、なんのこと??確かに虐められてはいたけど私元気にしてるよ?』
「お母さんが貴方の目をちゃんとして産んであげれば…っ!」
啜り泣く程度だった母は泣き崩れ床に座り込む。
ボロボロと涙を零し嗚咽しながら泣いていた。
母には悪いなとは思ったが瀬名は、なんだ瞳の事だったのかと、泣いている母を無理やり立ち上がらせ、こっちに立ってと母を移動させる。
昼間だが、電気の付いていない少し薄暗い部屋。
窓からは日が指していた、そこに母を立たせた瀬名。
『お母さんがこの瞳でうんでくれたおかげで、私、可愛いでしょっ。』
ニカッと笑い母を見つめる。
光があたっているせいか、瀬名の左目は
蒼く澄んで、光っていた。
『私、この瞳、大好きだよ。』
そう言うと母はまた泣き始め、ごめんねごめんねと繰り返す。
母のやり場の無い気持ちを晴らそうと大丈夫大丈夫と繰り返し、母を抱きしめる。
少し落ち着いたのか母の呼吸が少しずつ整っていく。