悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第15章 『氷の微笑』発動!
そのまま私の腰を引き寄せ、ワルツの体制に入った。
いつもなら胸を高鳴らせる場面。だが今は心が冷えきっていた。
――私の魔法は闇属性。相手の魔力を奪うことができる。
何事もないかのようにルシアン様と円を描きながら回り続ける。
時が来るまで。
そして、その時はすぐに訪れた。
マーゴット男爵令嬢と令息が近づいてきた瞬間を狙い、私は目配せする。
「ルシアン様、お力お借りします!」
彼は頷いた。何をしようとしているか、理解しているようだった。
私はルシアン様の魔力を拝借し、マーゴットのパンプスのヒールの付け根に薄い氷の刃を差し込む。
――パキン。
ヒールが折れ、マーゴットは見事に足を大開脚させて座り込んだ。
「え!? え!? なんですの? フロアが滑って……」
彼女は足元を見たが、魔法で作った薄い氷はすぐに消える。
しかも、先ほどアメリアにシャンパンをぶちまけた時に濡れた絨毯を踏んでいる。
アリバイは十分だ。
周囲の視線は好奇心に満ち、ただ『ヒールが折れたのか』『エスコートが悪かったのか』と囁くばかり。
マーゴットはロベルトの手を借りてよろよろと立ち上がるが、好奇の目に耐えられず出口へ向かう。
――だが、そうは問屋が卸さない。
私はシャンパングラスの乗ったトレーを持ち、わざわざ二人の前に立ちはだかった。
そして、トレーごと投げつける。
「な、なにをなさるの!? ヴァイオレット様!」
びしょ濡れになった前髪を持ち上げ、マーゴットは私を睨みつける。
私は氷の微笑を浮かべ、静かに告げた。
「あら、男爵家ではなかなか手に入らない上等なシャンパンですのよ? お気に召さなくて?」
すっと足首を出すと、その部位には確かに腫れが走っていた。
――アメリアを傷つけた代償を、彼女に返すために。
「この腫れ方……蹴ったり、ぶつけたりではできませんわね。
そうですわ、小さな風魔法を受けたら、ちょうど足首に風の刃が走って……こんな感じになりますわ」
私はトレーをするりと床に落とし、濡れた姿のマーゴット男爵令嬢を凍るような視線で見下ろした。