悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第1章 目が覚めたら
私は鏡に向かって叫んだ。 でも、鏡の中のヴァイオレットは、ただ優雅に眉をひそめているだけだった。
いや、こんな所でお嬢様チート要らんから!
鏡の前で苦悩する私を、多分父であろう栗色の髪の男性が、医師とともに私を姿見からひっぺがすと、ベットになかせて、傷の具合を見る。
「外傷は大したことありませんな」
医者の判断にローゼン公爵は納得いってない様子で
「でも、自分の名前は間違えるし、なんだか、家族を理解してないようなんだが?」
疑問を口に出すと、医師は眉間に皺を寄せ、慎重に言葉を選ぶように口を開いた。
「記憶混濁の可能性があります。頭部を強く打たれた影響で、一時的に自分の身分や家族関係を認識できない状態かと」
「記憶喪失……ということか?」
ローゼン公爵が低く呟くと、銀髪の女性――おそらく母である人物が、私の手をそっと握った。