悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第11章 文化祭とヴァイオレット
と、言いかけたところで、クラスメイトが顔を出し、
「ローゼン嬢とバルモン卿にご指名です!」
と声をかけられ、私は
「はーい!ただいま伺いますわ!」
と、逃げ出す口実ができてかいつもより陽気に返事をする。
「それでは、ルシアン様、お話はまた後で…」
と言って、私はルシアン様を置いてホールに戻った。
ホールに足を踏み入れた瞬間、三人の視線が一斉に私に注がれた。
レオン様、ノエル様、ユリウス様――それぞれが別々の席に座りながらも、まるで舞台の観客のように私を見ていた。
その中で、最初に声をかけてきたのはレオン様だった。
彼は腕を組み、鋭い眼差しで私を見据えていた。
「……さっきのやり取り、見ていたよ。マーゴット嬢をああまで追い詰めるとはな」
私は執事らしく一礼し、『氷の薔薇』と謳われた微笑を浮かべる。
「お客様にご満足いただくのも執事の務めでございます。ですが、あの方には少々“特別なサービス”を差し上げましたの」
レオン様は口元をわずかに歪め、笑うとも呆れるともつかぬ表情を見せる。
「君は本当に……恐ろしい。公爵令嬢としての威厳を保ちながら、庶民的な機転で相手を打ち負かす。どちらが本当の君なのか、俺には分からない」
その言葉は、先ほどルシアン様に突きつけられた問いと重なり、胸の奥に再び刺さる。
私は一瞬言葉を失い、紅茶を注ぐ手に力が入った。
「……本当の私、ですか」
私は小さく息を吐き、微笑みを貼り付けたまま答える。
「それは、きっと皆様が見極めることなのでしょう。私はただ、この場を楽しむだけですわ」
レオン様はしばし黙り込み、やがて低く笑った。
「なるほど……君らしい答えだ。だが、俺は君の“氷の微笑”よりも、庶民的に笑う君の方が好きだな」
その言葉に、胸がどきりと跳ねる。
私は慌てて姿勢を正し、執事らしく恭しく頭を下げた。
「……お褒めいただき光栄です、レオン様」
次はノエル様の席へ向かった。
場はざわめきながらも、次第に落ち着きを取り戻していく。
そんな中、ノエル様が軽やかに手を挙げて私を呼んだ。
「ヴァイオレット嬢――いや、今日は執事殿と呼ぶべきかな。さっきの一幕、見事だったよ」
私は恭しく一礼し、執事らしい所作で彼の前に立つ。