悪役令嬢に転生したけど推しが中の人だった件について
第10章 神楽坂蓮の疑念
「……俺は、確かに惹かれている」
その言葉は心の奥から自然に漏れた。
ヴァイオレットの気品ある姿に惹かれているのは間違いない。
だが、彼女の中に潜んでいるであろう“別の人格”
――庶民的で素直な温かさを持つ存在にも、同じように心を奪われていることを自覚してしまった。
(ヴァイオレットか、それとも……その奥にいる誰かか。どちらにせよ、俺はもう目を逸らせない)
馬車の揺れに合わせて、彼の思考はゲームのストーリーへと飛んでいく。
かつて自分が演じたルート。
プレイヤーが選択肢を重ね、信頼を積み重ね、やがて心を開いていく物語。
「……攻略ルート、か」
ルシアンは苦笑した。
(もし彼女がゲームのヒロインなら、俺はどう誘い込むべきだ? どんな選択肢を提示すれば、彼女は俺のルートに入ってくれる?)
思案は尽きない。
庶民的な一面を見せる彼女に寄り添うか、令嬢としての誇りを尊重するか。
どちらを選んでも、彼女の心を掴むには誠実さが必要だと分かっていた。
「……俺が惹かれているのは、ヴァイオレットだけじゃない。彼女の中にいる“誰か”もだ。だからこそ、俺のルートに誘い込むには、両方を受け入れるしかない」
馬車は屋敷へと近づいていく。
夕闇の中、ルシアンの胸には疑念と好意が入り混じり、そして新たな決意が芽生えていた。
――彼女を、自分の物語へと導くために。